「帽子の人」
昨年の今頃、冬が近づいてくると散歩に行くのに頭が寒いだろうと、
奥さんが僕に帽子を編んでくれることになった。
アフガン編み帽子といった。
編む前にこんな帽子だと、
本の見本を見せてもらうととてもかっこいい。
モデルさんが被っている写真もセンスが感じられてとても素敵だ。
帽子が出来上がるのを、僕は楽しみに待った。
一つ問題があった。僕の頭のサイズは大きい。
奥さんは苦労し、サイズを調整しながら編んでくれた。
そして帽子ができあがった。
しかし、モデルさんが被っているのとはかなりカタチが違っていた。
大きく編むとバランスが微妙に変わって縦にも長くなったのだ。
帽子のシルエットはメトロン星人の頭に似ていた。
僕が被ってみるとノッポさんの帽子のようにも思えた。
その姿を見て奥さんは大笑いしながら、
恥ずかしいから近所に散歩に行くときだけにしてねと言った。
帽子を被って散歩に出かけると、とても暖かかった。
大きく作ってくれたので首の後ろと耳までかぶさって暖かい。
公園に行くとご近所の犬の散歩の時間で飼い主さんたちが犬を散歩させていた。
飼い主さんたちとすれ違うとなぜか視線が上で、
帽子を見ているのは明らかだった。
何も言わないが違和感があるのだろう。
でも犬たちは興味があるようでしっぽを振って僕に寄ってくる。
帽子を被っていない昨日までとは違う反応だ。
毎日、被って歩いていると他の人達も見慣れてきたのか、
すれ違う時に微笑んでくれるようになってきた。
犬たちはもちろん大喜びで中には僕に飛びついてくる犬も出てきた。
僕はこの帽子がとても気に入って、
「近所だけにして」
と言われたが、どこにでも被って行くようになった。
はじめて行くcoffee shopでも帽子を褒められた。
帽子をきっかけでご近所の散歩する方たちと仲良くなれたり、
coffee shopでも親しくなれた。
それから冬の間はもちろん、春が来て暖かくなって、
帽子を被らなくなった季節になってもずっと「帽子の人」と言われていた。
だんだんと朝晩が冷えるようになってきたので、
また、そろそろ帽子をタンスから出して被る用意をしておこう。
犬たちは覚えてくれているだろうか。
楽しみだ。