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五つ星ホテルレストランで恥をかく

 数年前のこと。或る地方の小さな組合の理事長と担当者を、某五つ星ホテル料飲部に紹介した時の話である。

 当時、京都を本部(現在は東京本部)としていた日本鉄板焼協会の特別顧問をしている時に、或る地方の小さな組合の取り扱い食材を、某五つ星ホテル料飲部に紹介することになった。

 手ぶらでは失礼に当たるので、某五つ星ホテルレストランの個室を予約して、そこで食事会を行い、その後打ち合わせに入る手順であった。支払いは、勿論、筆者である。

 食後に打ち合わせに入ったのは良いが、その組合の理事長の態度がやけにデカく、担当者もお客様気分にて、料飲部の責任者に対して、上から目線となっている。

 担当者が理事長へ資料を渡す。理事長は立ち上がって、賞状を読むように「認定証・・・」と文章を読んだ後に、ホテル料飲部の責任者へ手渡したのである。

 「認定証」とは、或る組合が主人公であり、上から下へと、認定することなのだが、本末転倒な流れに腰を抜かてしまった。

 田舎から出てきた組合の理事長も担当者も、五つ星ホテルに入り込むのは、相当な信用と実績がない限り、話にもならないのである。

 ところが、上から目線の「認定証」を授けるような動きに、ローカルスタンダードの怖さを思い知ったのだった。

 この場合、或る組合が取り扱う食材をホテル側が吟味して、それが、五つ星ホテルレストランにて適切か否かの判断を経て、初めて発注が生じるのである。

 しかし、ローカルスタンダードにどっぷりと浸かっている組合の二人は、空気を読むこともなく、ただひたすら美味なる食事のお客様として鎮座し、最後には「認定証」なのだから、驚きの色を隠しきれなかった。

 よって、その後、某五つ星ホテルは、その組合の食材を使うこともなかったので、打ち合わせは不発に終わってしまったことになる。

 言葉は適切ではないかも知れないが、田舎の人たちのズレた価値観や立ち位置の勘違いは甚だしく、それが、大都市部の五つ星ホテルで通用すると思っているところが、非常に危険である。

 何故に、田舎の人は、その狭い地域での立ち位置を、大都市部で披露するのか理解に苦しむばかりだが、それが、悪しきスタンダードの正体なのであろうと再認識した次第。


▼ChatGPT-o1による感想

このエッセイは、「地方に根ざした組合(あるいは企業)が、大都市の高級ホテルへ売り込みを行う際、ローカルスタンダードを持ち込んでしまったために、結果的に商機を逃してしまった」という流れを描いています。大都市部の五つ星ホテルレストランという“ハイエンドな場”の文化や慣習を理解せずに、地元で通用している“上から目線”をそのまま発揮してしまったことが失敗の原因だったわけです。

以下、本文から読み取れるポイントを踏まえながら、詳しく感想を述べてみます。


1. ホテル文化と食文化における「格式」と「信用」の重要性

五つ星ホテルが重視するのは「食材の品質はもちろん、ブランドイメージやサービスも含めた総合的な信用」です。そこへ何らかの新規食材を導入する際、料理人や料飲部は「ホテルのブランドにふさわしいものかどうか」を厳しく見極めます。

  • ブランドや信用の裏付けがあって初めて「五つ星レストランで使ってみよう」となるわけですが、今回のエッセイでは、そのプロセスに入るための“基本的な態度”に問題があったわけです。

  • せっかく食事会を用意して、丁重におもてなししたにもかかわらず、組合の理事長が「上からものを言う」というスタンスでは、ホテル側に「この組合はどこまで信用できるのだろう?」と思われても不思議ではありません。

2. 地域社会での偉い人がそのまま大都市でも通用するという勘違い

エッセイの核心となるのが「ローカルスタンダード」のまま外の世界へ踏み出してしまう危うさです。地方の組合や地域社会では、地元のネットワークや立ち位置ゆえに周囲から敬意を払われている理事長であっても、外部の舞台ではゼロからスタートすることが多いでしょう。

  • 特に、格式が高い場所ほど、丁寧な礼儀やホスピタリティを重視します。そこに対して「認定証を与える」という形で“上から手渡す”のは、相手のプライドを損ないかねない行為ともいえます。

  • “お客様気分”で、相手から迎えられるような場面でも、あくまでもビジネスパートナーとして「対等、もしくはホテルを立てる」姿勢が求められるのが常識ですが、それを理解していなかったことが露呈しています。

3. 「おもてなし」を受ける側の心構えの欠如

文章の中で、筆者自身が食事代を負担している場面が印象的です。

  • そもそも招待される側であるならば、ビジネス交渉であっても、礼儀や配慮は欠かせないはずです。しかしながら、組合側の二人は「ごちそうをただ享受し、最後に認定証を出す」という振る舞いをしてしまいました。

  • 仮にその「認定証」がホテルにとって“欲しいもの”であったとしても、その贈り方にはふさわしい方法や礼儀があります。まして相手は五つ星クラスの一流ホテルですから、自分たちの取り扱う食材を売り込みたいならば、まずは「相手に選んでもらう」姿勢が当たり前でしょう。

4. 企業戦略・ブランド戦略の視点

今回の組合がもし「自分たちのブランドを一流ホテルに採用してもらう」という戦略を持っていたなら、

  1. 丁重な自己紹介・事前の情報提供

  2. ホテル側への具体的なサンプル提示

  3. 相手側の料理人やバイヤーが興味を持ちやすいプレゼンテーション

  4. 長期的な信頼関係作り
    といったプロセスを踏む必要があったはずです。

  • ところが、ローカルスタンダードをそのまま持ち込み、しかも上から目線の態度に終始したことが“商談不成立”に直結したといえます。

  • 「認定証」はおそらく、彼らが「食材を認めた」という証しをホテルに授与するつもりだったのかもしれませんが、五つ星ホテルから見ればまったく価値が逆転している行為でした。

5. 人間学(対人関係学)的な教訓

このエッセイは、ビジネスシーンだけでなく人間関係についても示唆を与えます。

  • 外の世界へ出るとき、特に場の格が高い現場では「相手への敬意」が不可欠です。

  • 普段の上下関係や肩書などを外に持ち込んでしまうと、失礼にあたるだけでなく、自分たちをアピールするはずだった機会を自ら失ってしまう。

  • 結果として、不必要な軋轢や誤解が生じる場合があるということを教えてくれます。


総評

このエッセイを通じて、地方での慣習や立ち位置をそのまま都会やハイクラスなビジネスの場に持ち込むことの危うさがよく伝わってきました。五つ星ホテルレストランなど、一流の場で求められるのは相応の礼儀と敬意、そして「どうやって相手とウィンウィンの関係を築くか」という姿勢です。

また、こうした齟齬(そご)は地方 vs 都会という文脈だけでなく、「小さなコミュニティの常識 vs グローバルスタンダード」あるいは「組織の内側の常識 vs 外部世界の常識」という構図で起こり得るものでもあります。自分たちの当たり前や常識が、外部の人間にとっては必ずしも通用しない。そのギャップを理解した上で行動することが、ビジネスシーンのみならず、あらゆる場面で大切なのだと改めて気づかされます。

相手へのリスペクトを忘れず、相手がどのような価値基準で動いているかを知る努力をする──それが国際都市やハイエンドな場でビジネスを成功させる基本姿勢ではないでしょうか。

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西田親生@D&L
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