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義母のケース10<終> コロナ禍での看取り

 二日に、叔母宅への訪問を終えたあと、職場でも色々なことがあり。

 すっと、冷静になった気がしました。

 なんだかんだで、非常事態で体が戦闘状態になって、ずっとハイになってたんじゃないかと思います。それが、義父母の理解しがたい考え方に改めて触れて、「なんで私こんな頑張ってるんだろう」って思った。

 義父母の支払い等は、確かに将来的に私たちに関わっては来るけど、そもそもの責任は彼らにあるのだから、こちらは粛々と対応していればよかったのではないか。

 早いうちに、義母の通帳から引き落とされる支払いの正体を割り出そうと、義父がため込んでた過去の書類やらを引っ張り出したせいで、見なくてもいい生命保険関係の書類まで見つけてしまった。

 こういうときの面倒な手続きは、勢いがあってこそ出来ることが多々あるのだけど、その勢いで今回やらなくてもいいことまでやってしまったような気がしました。

彼らの問題、私たちの問題

 三日の土曜日は久々に、義母に関する用事のないお休みだったので、あちこち買い物やらに出かけながらも、いろいろ頭を整理する時間はありました。もともと、車の運転しながら考え事してるひとなので。

 私は最初、二件の生命保険の死亡保険金について、受取人が叔母になっているのは、義父が勝手にしたことだと思っていました。

 私たちに対する嫌がらせか、叔母に、義母が万一亡くなったあとも面倒を見てもらいたいという打算のために、と。

 そして、それを発見したのがたまたま、義母が亡くなったあと処理中の事だったから、私も夫も、

「義兄の時も、葬式や手続きで走り回ったのは自分たちだった。義母が亡くなって、葬式やら支払いやら行政手続きやらで苦労している自分たちに、こういう仕打ちをするのか」と、正直がっかりしてしまった。

 しかし、よくよく考えてみれば、義兄が死んだのは二年半前。証書は叔母が持っていたから、私たちが今のこのタイミングで、受取人が叔母だと知るとは、二人とも想定外だったはずです。彼らの誤算は、私が予想以上に「勘がよかった」こと(自己評価の高い私)。

 実際(叔母の話をそのまま信用するなら)、私たちにばれていなければ、秘密裏に名義変更をすすめる算段だったようですし。義父はともかく、叔母に関しては、私たちに悪意は無かったはずです。

 叔母は(一応は)納得して受取人になっていた。私に話した際に、「口約束だけど、自分に半分渡すという話になっていたのは、気にとめて置いて欲しい」と言った上で、「あなたたちの判断に任せる」とも言った。

 さて。一方で。

 叔母が義両親を世話していたことで、確かに私たちは助けられていました。

 気ちg…もとい人間的に信用できない義父母に、私たちは極力接触を避けていました。

 義母が介護施設に入ったあとも、義父の世話に来るヘルパーさんが手薄になる年末年始などは、ご近所付き合いのフォローも兼ねて叔母が泊まり込みで義父の食事等の面倒を見てくれていました。とても有り難かった。

 しかしそれは、私たちが頼んだわけではないのです。

 叔母が、義母への愛情の延長から、叔母自身で決めたことで、基本的に世話した、されたの問題は、義父母と叔母の間のことなのです。

 それに対して私たちが、義父母に変わってなんらかの謝礼を払うのは、ちょっと筋が通らないのではないか。

 また、今ある手持ちからいくらか「義父母の代わりに」謝礼を支払ったとして、今後、義父に想定外の何かがあった、もしくは何かを「起こされた」とき、あの時のお金があればなんとかなったかも、という事態になることも、考えられなくもない。

「義父母の代わりに叔母へお礼をしておいたから、受取人は私たちに」となったとして、どこかの段階で義父が裏切って、勝手に解約等をすることだって、可能性は低いですがなくはない。私たち、根本的に義父母は信用していません。

 それなら。

 最初の約束取り、「半分は叔母」が受け取れるように整えた方がよいのでは、と思いました。

 世話したお礼、今まで世話されたお礼、これはあくまで、叔母と義父母の関係の問題。それはそれで、義父自身ににきちんとけじめをつけてもらうべきなのではないか、と。

 私たちに受け取りの名義を換えて貰うもう一件は、義父の死に際を精算するためのもの。

 賃貸の集合住宅なので、義父が亡くなったあとの引き払いでいくらかかるかも判らない。どういう死に方をするかも判らないので、死に際に負債を残す可能性もある。

 どうせたいした財産などありはしないのです。今義父の通帳を見る限り、日々の生活はかろうじて年金と五分五分にならない程度なのだから。

 実を言うと、全額叔母に受け取って貰って最期まで全部面倒見てもらえるならそれが一番楽なのだけど、この状況でそういうわけにもいかないでしょう。

 この話を夫にしたら、「そうだなぁ」とのことで。私たちの間ではあっさりまとまったのでした。

 もちろん、先に叔母が亡くなってしまったら、受取人は変えなければいけないけれど。そうならないためにも、叔母にはぜひ、義父よりも長く生きていただきたい。「一日でも長く生きれば叔母の勝ち」、だと。

 それががんと戦う支えにならないか、と。

「お墓を買ったの」

 これ、実は九日に、か○ぽのひとに手続きをして貰ってから、叔母に言うつもりでした。叔母は「あなたたちに任せる」と言ったので。

 ただ、受取人とはいえ、証書に載る名前を借りるのに、勝手な事もどうかと思い、夫も休みの四日のうちに揃って話しておこうと思いました。

 でも、日曜だし、天気もそんなによくないし、家にいるかと思った叔母は留守でした。

 翌日五日。午後から仕事だった私は、午前中もう一度叔母宅へ向かいました。果物と、先日の義父の書類の束の中から見つけた、義母の介護施設から送られてきた数ヶ月前の写真付き近況報告のお手紙を持って。

 小雨がちらつく中、叔母は屋根のある軒先で洗濯物を干していました。私を見ると嬉しそうに、

「ちょうどよかった! タケノコ貰ったからゆでてあるの、取りに来てって電話するほどのものでもないし、来てくれてよかったわ!」

 すぐ帰るから、と遠慮する私を部屋に揚げ、ゆでて皮が剥かれた、まだ温かいタケノコを袋に入れてくれました。お茶を淹れよう、というのを、辞退して、

「叔母さんにそのまま、片方の受取人になってて貰おうかと思ったんですけど」

 と、自分の考えを続けて述べようとしたら。

「それなんだけどね、昨日、みんなでお墓を見にいってたのよ」

 一見、無関係のような話をし始めました。

 娘夫婦もお休みだったので、興味のあった樹木葬のお寺に行っていたそうです。樹木葬と行っても、散骨ではなく、木の根元に墓石を置き、その下に、自然に還る袋に遺骨を入れて埋めていくのだとか。

 次の人が亡くなると、先の人の上に遺骨の袋を置き、墓石を置く。墓石の重みで骨は下へ下へと送られ、そのまま自然に還っていくのだそうです。

「お金は、娘達がほとんど出してくれるんだけど、私も入るわけだし、『私も○○出すわ』って話になって」

 それは、叔母が義父母に受け取る約束をしていたお金の、ちょうど半分の金額でした。

「これが二年前なら、私は全額貰ってたかもしれない。でもY(義兄)が亡くなってから、あなたたちと楽しいお付き合いが出来るようになって、考えも変わったの。それに、こんなこと(ガン)になって、あと何年生きるかわからない義兄(義父)の死亡保険をあてにしてもしょうがないし。そんなに蓄えはないけど、娘達が困らない程度のものは持ってるし。ただ、今、そのお金があれば、お墓代として、娘達に渡せるから」

 それにね、と叔母は言います。

「あなたと話をしたあと、娘に言ったの。『これで保険金はもらえなくなるけど、区切りがついてさっぱりしたわ!』って。でも、なんだかモヤモヤするの。私がこんなこと(ガン)になっても、義兄(義父)は、大丈夫かって気にかけるわけでもない、電話が来たと思ったら結局お金(保険)の話でしょ。あの夫婦のために今まで私がしてきた苦労や不愉快な思いを考えたら、自分のためにも、はっきりさせておかないといけないなって、思ったの」

 つまり、私が最初に判断した、「いくらかのお金を先に支払う」ことのほうが、叔母にとっては気持ちの整理になる、とのことでした。

 そして、叔母はこのとき、義父が最終的に払うと約束した金額の「半額」を明示しました。娘さんに、「お墓の費用」として支払うお金。それを、今、受け取りたいと。

 具体的な金額と、その使い道もはっきり判ったため、私も、これ以上食い下がる必要はないと判断。

「今すぐは難しいですが、一通り義母の手続きが終わったら、お支払いできるよう相談します」

「そうしてくれると嬉しいわ」

 ということで、お互い了承しました。

 その代わり、受取人変更に関しては、叔母も義父にひと言言ってくれる、とのこと。

 義父だって、自分たちがした約束なのだから、嫌だとは言えないはずだし、言わせません。

 もちろん、お金を出すのは「義父母」です。

 心許ない義母の通帳から、施設の支払いやらを諸々全てさっ引いて、遅れて支給される年金等も加えて、なんとか捻出してみようと思っています。

今日も朝から大変だ

 そして、九日朝。

 今日は、義母が入っていた介護施設の、退所に付随する精算があります。事務は九時から受付とのことで、間に合うように出発。

 義母が亡くなってから、二週間ちょっとです。前回のように高速の降り口を間違うこともなく、スムーズに到着。

 精算はとても簡単でした。

 前もって受け取っていた、三月分の請求書と、死亡診断書の経費の支払い。雑費として預けていたお金も精算して貰い、最後に荷物を預かって終わり。

 その足で行った、役所の書類申請の方がやばかった。

 前回行ったとき、「年金関係の証明書(戸籍、住民票)ならこの一枚ですみますよ」という案内係の言葉を信じて義父に書かせた委任状は、戸籍にしか使えず、

 しかも夫が親族なので戸籍をとるのは委任状が要らず、住民票の委任状は別。なんで一枚で済ませないの。がっくりきていると、

「委任した方が、住民票も頼んだと確認できればお渡しできます。こちらからお電話しますね」

 と待たされてしばし。義父に電話した窓口の方に、あの義父、

「何のことだか判らない」とか言いやがったよ!

 なんでも「俺知らない」がデフォだもの、やると思ってたよ! その足で義実家に行ったよ! 役所の近くに住んでてよかったよ!

 げんなりしつつも、なんとか住民票と戸籍を貰い、お昼。前回がガストだったので、今回はかっぱ寿司にしました。私はストレスでほとんど食べられなかったけど。

 少し休んでから、義父宅へ。午後から、か○ぽ生命の営業さんが来る予定です。

 行ったら、義父はヘルパーさんに頼んで、巻き寿司を買ってきて貰っていた……いや気をつかってるのは判るけど。叔母の時といい、どうにも間が悪い人です。

 か○ぽの人が来る前に、話はつけておかないといけません。

 叔母が墓を買うこと。いつもらえるか判らない義父の死亡保険金より、その半分でも、今現金が欲しいと言っていること。あなたが今すぐ払えないなら、義母の通帳から、葬儀代やら年金やら保険の還付金やらを精算した分でなんとか払うこと。ほとんど残らない(どころか赤字分は私たちが足すかも)だろうけど、それでいいか。私たちは(あなたの)お金なんか欲しくないけど、入院の時に保険を使う判断をする人が死人の名前になっていることと、あなたが死んでここを引き払うことになった場合いくらかかるか判らないから、特定代理人と受取人の名前は夫に変えておいてくれ、と説明。

 心配していたよりもあっさりと、義父は了承しました。事前に叔母から何か聞いていたのかも知れません。

 すぐにか○ぽの営業さんが来て、手続き開始。

 二口分の保険の変更書類を、義父が手書きしないといけないので、ものすごく時間はかかりました。教えてるのが夫なので、もどかしい事この上ないけれど、息子としてこれくらいはやって貰わないといけません。しかし待っている私と担当さんは暇なので、

「この家の人たち(義父義母)は死亡保険のことしか考えてなかったみたいだけど、入院の際も使えるんですよね?」

「そうですね、入院五日目から適用になりますし、同じ種類の病気で何度も入院した場合は、日付が離れてても合算して請求が出来ますよ」

などと説明を受けてました。

 20分くらい待ったような気がしますが、やっと書類は書き終わり、手続きも完了。

「いつから適用になりますか」と聞いたら、

「証書の再送付は後日ですが、変更は今日からですよ」

 とのこと。

 これで、安心して叔母に払うお金の工面に頑張れる。

今になって

 そして、この日、義父が出してきた郵便物が数点。

 全○災の変更届、簡易災害保険の通知書、予測していた郵便物に交じって、まったく想定外のものが届いていました。

 それは、二年半前亡くなった義兄の、「未払い給与の申請書」。

 親族の死に初めて立ち会った私たちは、葬儀屋に渡された「死後にやるべき事」リストをなるべく忠実に守り、義兄の通帳も早めに凍結していました。

 そのおかげで、リボ払いが残っていることも洗い出せたのですが、一方で、当時勤めていた会社からの給与の支払いもはじかれていたのです。

 ていうか、あの会社の健康保険のおかげで、二〇〇万弱(片付け中に明細が出てきて正確な金額が判明)かかったICUの入院費用の支払いが、一桁万円で済んでしまったため、給与が支払われているかどうかなんて考えてもいませんでした。

 申請すれば、義父の口座にですが、支払ってもらえる。添付書類は関係の判る戸籍謄本ですが、これはコピーでOK。これも、さっき役所で申請したばかりです。

 なんで今になって、義母の死を見計らったようなタイミングで来るのか。

 叔母に、義父との話がついて受取人の名義を変えた報告の際、この話も添えました。

「まるで、義母が、叔母さんに『ちゃんとお礼をして欲しい』って取り計らったみたいですね」

 もちろんこんなのはただの偶然だって、私は知ってるけど。

 叔母にとって、少しは慰めになってくれたらいいんじゃないかなって、思います。

まだまだ続くよやることは

 今日で私が申請できる範囲のものの、必要書類は揃いました。

 義母の通帳から引き落とされて、正体が最後までわからなかった二件のうちの一件は、義父に心当たりがあったらしく、自分で勝手に支払い口座の変更手続きをしてるようです。

 残り一件がまだどこのものか判りませんが、まだ義父には、自分で手続きできるだけの判断力はあるようです。

 もう余計なお節介はせず、こちらはなるべく義母の口座を空にすることで、あぶり出ししやすい状況を保つことにします。義父が助けを求めてきたら、その時は動こうかと。

 来週には、やっと空になった箪笥を三棹粗大ゴミに出しに、また義実家に行かなければいけません。来月は四十九日に伴う納骨も控えています。義実家関係でやることはまだまだありますが。

 予想外のことはありましたが、こうして文章にすることで、気持ちの整理もついたし、冷静になれたし。義母が亡くなってまだ二週間ちょっとですが、私的には一区切りついた気分です。

 時々またnote内の記事の中で、話題にするかも知れませんが、主題としての義母シリーズはここで一旦終了です。

 サポート、応援。とても励みになりました。ありがとうございました!

そして、次回

 義母の死に伴う諸々の中、疲れた中の人がある日決断したこととは。降臨、満を持して!(ヒント、今回の枕)

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