自分にはない「金ピカ」
場所は名古屋。
23歳の自分はミッドランドスクエアの地下通路を汗を拭いながら携帯電話を握りしめ、歩く。
「なんとか、そこをどうにかなりませんかね」
「どうにかなるわけねぇだろ!いいかげんにしろ!」
怒鳴り声のみが電話先から聞こえるやりとりが続く。
社会人の洗礼と言うのはまさに今なのかと肌身で感じる。
関わる人全てから怒鳴り声が飛び、僕は自分の存在価値が何なのか完全に見失っていた。
街を出れば、交差点には多くの見知らぬサラリーマンが携帯電話片手にそれぞれの事情や責任を抱えて歩いている。
9月のまだ汗ばむ季節でもしっかり上下スーツに身を包み。
髪型もしっかり整えたサラリーマンは成果という2文字のために我慢をそこに押し殺しているようにも見えた。
対して洗礼のみ浴び続ける自分は何の成果も成し遂げられていない。
横断歩道に映る沢山の影帽子とその中に動かずにいる自分の影帽子を見て、絶望を感じていた。
40年間在籍していたら何か光明が見えるのか、自分の見たかった世界はあるのか。
全力で取り組めるフィールドにいれば
見つかる何かがあるはずだ。
そうして少しずつ成長した自分にはこの今の現実がとても辛かった。
その先に自分が見たい未来が全く見えなかったからだ。
・・・・
名古屋は生活には困らない住みやすい街だった。
僕が住んでいたのは高畑駅。
歩けばすぐドラッグストアがあって、美容室があって、レンタルビデオ屋もクリーニング屋も飲食店もまぁまぁある。
車社会の名古屋でも車が無くても生活はできるのだ。それでも周りは知らない人だけ。便利だけども虚しさは募る。
そこで初めて買った漫画はゲオで買った「宇宙兄弟」。
漫画のなかでシャロンさんがムッタに話していた
自分の中の金ピカ(自分の中でコレ!って腑に落ちる物事)ってなんだろうか…。
ますます謎は深まるばかり。
ただ、モヤモヤしながら道を悩んでいる主人公ムッタの心情は何となく共感できた。
その宇宙兄弟のテーマソングはスキマスイッチが歌っていた。
自分のモラトリアム期を見事に表現している
自分の"救い"のような歌詞の数々。
ユリーカも自分も奮い立たせた曲で。
初めて聴いたのは運転中の車の中、
ラジオから流れてきた。
歌詞の初めから自分のことなのか!?
ってビックリしたのは記憶していて、
聴いたあとにハンドルをぐっと強く握って、自分の中から湧き出るエネルギーを感じた。
執着していても先が見えないなら、違う道を選ぶのも良いのかもしれない。
新卒入社した会社を1年で辞めてしまうと、自分の社会人人生はどうなるんだろうか、社会人失格の烙印を押されてしまうのだろうか。
胸にある沢山の不安をこの歌詞が吹き飛ばしてくれた。
自分自身が止めてしまう要因を作ってしまうなら、それをまず全て取っ払う。
そのあとに自分の中だけにある
「金ピカ」を探してみたいとそう思ったのだ。
まだ何かは全くわからないけど。
それが大学で出会ったスペシャルティコーヒーと再会する4ヶ月ほど前の話だ。
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