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『ファラオの密室』

エジプト神話が好きなので。

くらいの軽い気持ちで手を出したのですが、個人的には今年読んだ中でもかなり上位の刺さり方をしております。このミスってやっぱりすごい。

以下あらすじ
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舞台は古代エジプト。王墓の崩落事故で死に、ミイラにされた神官書記のセティは冥界で審判の時を待っていた。順番が訪れ真実を司る神・マアトの前で無罪の宣言をするが、直前になって秤に乗せるべき心臓の一部に欠けがあることが判明する。マアトは、審判を受けられなくなったセティに3日間の期限付きで現世に甦り、欠けた心臓の一部を探すことを提案する。こうして現世に甦ったセティだったが、己が死んだ崩落事故を調べる中で新たに大きな事件に直面する。それは崩落が起きた王墓に埋葬されるべき先王のミイラが消失するという前代未聞の出来事だった。果たしてセティは、心臓の一部を見つけ無事に冥界に帰ることができるのか…!?

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という何ともファンタジックで不思議な1冊。

書きながら思いましたが、2つの出来事が並行して進んでいくのであらすじを綺麗にまとめるのが結構難しい。

最初は人物名も地名も長くて少し苦戦していたのですが、読み進めるうちにどんどん引き込まれ段々と気にならなくなりました。そんなことより面白い!が勝ってしまう。圧倒的に細かく作り込まれた世界観なので上橋菜穂子さん作品や小野不由美さんの『十二国記』などがお好きな方にはかなり刺さりそう。


なんてったって古代エジプトが舞台で探偵役はミイラですから。

セティが甦っていることに対して誰も突っ込まないまま物語はどんどん進んでいきます。皆が「おお!久しぶり!!会いたかったよ!!!」みたいなテンションで何の疑問もなく再会を喜ぶのですが、この辺りは古代エジプトの死生観や信仰を感じて面白いポイントです。

「ミステリなのに神様が出てきて死んだ被害者と会話している」

という改めて考えるとかなりおかしな状況なのですが、描写がしっかりしていて臨場感があるので不思議と違和感なく受け入れてしまいます。悔しい。儀式や衣服、身分制度などが丁寧に描かれているので没入感があって楽しいです。太陽に熱された砂の匂いや乾いた石の肌触りまで感じられるようでワクワクが止まらなかった…!

ミステリとしての仕掛け自体は、正直ちょっと拍子抜けというか残念な部分もあるのですが…それを補ってあまりあるストーリーの面白さであっという間に読了しました。それぞれの人間?模様とキャラクター性がしっかりしていてキャラ読みしやすい分、小説にあまり馴染みがない方でも割と楽しみやすいかも。(キャラ読みの是非はここでは問わないものとする)個人的にはジェドさんがいい性格していて結構お気に入りです。まじで嫌な奴ではあるのですが、日頃縁遠いミイラが主人公の物語なので人間くさい人がいると妙に安心してしまいます。



最後のセティの真相について、わたしはかなり序盤で察せてしまいちょっと寂しかった気もしています。振り落とされてしまった感があって…

しかし、個人的に終わり方がとても好きだったので「ぜ~~~んぶ最高!」くらいの気持ちにもなっております。最近陰鬱な感じの作品が続いていたので、久しぶりに読後感が良いものに出会えてほくほくです。

装丁も実に凝っていて美しい1冊なので、ぜひ単行本で出ているうちに読んでみてほしいなと思います。


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