行きたいと行きたくない
郡上祭り。
のりさんのラジオを聞いて知ったそれは、言葉をじっくり選ぶとすると、「行きたいような、行きたくないような祭り」だった。
その祭りは、岐阜県の郡上市にて行われる、通称「徹夜踊り」。
言葉の通り、夜明けまで踊り続ける奇祭だ。その起源は400年前にも遡るというと、どれだけその地域に根深く、熱量の高い祭りなのか、とっても興味があった。
のりさんのラジオ放送が終わった瞬間、「みんなで行こう!!!」とほぼ反射的にLINEで送った一言は、気持ちがリアルに出来上がるより早かったと思う。
郡上なんて、彼がいないと行けない(行かない)し、みんなと行けるとしたら一生で一回あるかないか、ましてや、徹夜踊りなんて、もう今の年齢でもギリギリだと思う。
そんな高まる気持ちをよそに、意外にもみんなの反応はイマイチだった。
なんでだ…
でも、よくよく考えると、郡上、というか、岐阜へどうやっていくのか。交通費はどれだけかかるのか。そもそも私自身、22時以降起きているのが苦痛な人間なのに、一晩中起きて、それでいて踊り狂うことができるのか。そんな現実的なことを考え出すと、「みんなで行きたい!!!」と高まっていた気持ちは少しずつしぼんでいった。そのようにして、「行きたい!!!祭り」から、「行きたいような、行きたくないような祭り」に変化した。
そうはいっても、この機を逃すと、次はないような気がしていたのもあって、気づけば住人に会う度に「郡上行こうよ!!!」と声をかけていた。
苦笑いをしてやんわりと断られる中で、有り難くも検討してくれたのが、美帆さんと古き良き友達、イチローくん。イチローくんはすぐに話に乗ってきてくれたけど、それでも「行きたいような、行きたくないような祭り」には変わらず、「どうするー?いくー?」を永遠と繰り返していた。
そんな中、美帆さんが唐突に「行く!」とLINEをくれた。前日まで悩んでいたようで、仕事を休むことを決断してくれた。美帆さんが来てくれるなら、浴衣を着させてもらおう、そう勝手に決めた。
(そして、知らぬ間にあやこさんも検討してくれていたようで、彼女も当日行くことを決意してくれて楽しい予感。)
2024年8月14日 水曜日。
その日の19時までに電車に乗ればいつでもいいという状況で迎えた朝。
そわそわ。
今やなにをしたのかは覚えていないが、まだ祭りに行くという気持ちがぼんやりしていながら、やるべきことをやりつつ、のんびり荷造りをしていった。
その後は、2つあるキッチンに立つそれぞれの人にちょっかいをかけては、自分の部屋に戻る、と往復する時間がしばらく続いた。そんな自分を客観視して、「あ、私、手持ち無沙汰なんだ」ということに気づく。
そして、ついに、「行かなきゃ」ではなく、「行きたい」という気持ちが優った瞬間、私は荷物を持って、外へ出た。
久しぶりの電車旅。
家から距離が離れるほどに、わくわくが強まった。
といえば、旅の始まりらしいし、嘘ではない。だけど、移動時間はなんせ4時間近くもあるのだから、少しくらい読書できるだろうと持ち出した本の出番は予想通りなく、9割方が深い眠りにつき、無心の時を過ごした。
移動時間という、日常から非日常に移り変わる心情や景色の変化を感じられる日は一体いつになるだろう。実は、その日を大変待ち遠しく思っている。
そんなこんなで爆睡した末にたどり着いた穴山駅は、無人の駅で、早速私に冒険欲を掻き立てた。さーっと用事をすますように降った雨が、過ごしやすい気温と空気感をもたらしていた。その表情を見ていたのかと思うくらい、タイミングよく、3mくらい前にいたおばあさんが「涼しいでしょ?」と声を発した。あまりにタイミングが良すぎて、私に話しかけたとしか思えなかったけど、周りをきょろきょろと見渡して、やっぱり私に話しかけてくれていることを確認してから、「はい、とっても気持ちが良いですね。」と返事をした。「雨が降ったからね。」とおばあさんはにっこりして、家らしきところに入っていった。
うん、幸先良い。