練達(4)バルセロナと広島の橋となるお好み焼き
Rafaが白血病と診断された頃、私はもうバルセロナを離れていて、詳しい病状を知ることはできなかった。しかし、レストランから離れ、治療に専念すると決意した彼の気持ちの襞(ひだ)は、痛いほどわかる。私自身も同じ頃、大病にかかり2回の大きな手術を受けたからだ。ここで、あえて、「襞」という言葉を使った。病気と共存する人生を送るとは、他人には決して入り込むことのできない、複雑で言葉にできない、自分でも持て余すような多様な自分に直面するということだ。だからこそ、大病から戻ってくると、自分自身の人生を「まだ地球上でやるべきことがあるから、戻されたのだ」と、捉えるようになる。自分の力を他者のために使うことーその一点に向かうために、エゴを捨てて大いなるものに委ねようという気持ちになる。もちろん、怠けるし、さぼる、人間だから。でも、最後には「やるべきことをなす」自分に戻ってくるーそれが死に近づいたことのある人間に与えら得た特権のように、少なくとも私は、自分の体験から、思う。
久しぶりにRafaに再会したのは、2022年の広島の夏。Rafaは、彼にとっての「やるべきこと:平和のフードであるお好み焼きを世界に広げる」ために、再び広島で修行していた。私は、2021年に12年ぶりに日本に戻って、彼我の違いに呆然とし、CQの専門家であるのに、橋を架けることにもがき苦しんでいた。私のスペイン語は錆び付いていたけれど、Rafaとは深いところで対話ができた。真のSoul Mateとは、会った回数でもなく、時間でもなく、根っこでつながっているかどうか、による、と私は思う。辛い治療を乗り越えて、やるべきことへの一歩として、彼は昨年夏、広島にお店を開いた。バルセロナのソウルソースであるアリオリ(ニンニクと卵とオリーヴオイルを乳化させたソース)とオタフクソースに橋を架けて絶妙の割合でブレンドし、広島風お好み焼きに合わせる。Rio時代から11年、味の変容は、苦難から忍耐、忍耐からの練達から生まれたものであり、そこには、光に満ちた希望がある。練達を生きる人は、闇の中にあっても、光を失わない。