chika

しがない絵描きの落書き

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夜と蒼いダイヤ

 少し肌寒くなってきた最寄り駅のホームを進む。仕事で遅くなったのであたりはすっかり暗くなってしまった。 「…寒っ」  薄手のコートを羽織ってはきたが、そろそろ夜は冷える。かじかむ手を片方のポケットに突っ込んで、改札を通り抜けた。ふと、軽やかな音が風にのって聴こえてきた。 「路上ライブ…?珍しいな。」  俺は足を止める。体が自然と音の聴こえる方へと進み始めた。不思議なことに、その行動に一切の疑問はなかった。別に音楽は嫌いではないが、それこそ路上ライブなんて今まで一度も観た事なん

    • After that day#2

      ​───やった。ついにやったぞ…… 馬鹿みたいに心臓の鼓動が速い。自身過去最速を記録しているのではないだろうか。むしろ強すぎて痛みまである気さえする。 未だ手が震えているし、何ならさっき過換気になりかけてしまった。呼吸を整えつつ、スマホの画面を見る。 そこには、送信ボタンを押すまでに3時間ほどを要した、堰代ミコ宛ての長文のメッセージが表示されていた。ここ1週間ほど推敲に推敲を重ねて、ついに意を決して先刻送信したのだ。 (………!!) やっと動悸も落ち着いてきた頃、メッセ

      • After that day#1

        「………痛ッ」 痛みと共に鉄の味がして、ようやく我に帰った。 無意識のうちに自分の指を強く噛んでいたようだ。生温い感覚と共に、掌を赤い雫が伝わっていく。それが肌から離れる前に舐め取った。 「……はぁ…」 ため息まじりに俯く。ここのところ活気がないのは自分でもわかっていた。仕事にも全く身が入らず、普段なら失敗しない"芸術的にさくらんぼを乗せる"作業もミスを繰り返していた。 自分だけではない。4人ともまだどこか上の空というか、空元気な部分が少なからずある。 ​───蒼い蝶が羽ば

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