第 7 章 研究の総括と課題

 本章では、第 6 章の分析結果と考察をふまえ、示唆を与える。まず、第 1 節において本
研究の総括を述べる。続いて、第 2 節では学術的示唆、第 3 節では実務的示唆を与える。
最後に第 4 章では、今後の研究の発展のため、本研究の今後の課題を述べる。

―第 1 節 研究の総括―

 本研究は、社会的・学術的関心が高いにも関わらず、クラウドファンディング独自の構成概念に着目した研究がないことを問題意識とし、日本市場において、クラウドファンディング独自の構成概念を発見し、より汎用性の高い支援者の意思決定プロセスを探ることを研究目的とした。

 まず、ソーシャルコマースやクラウドファンディングに関する既存文献レビューをした。それらとインタビュー調査を踏まえ、概念モデルを構築した。構築した概念モデルを検証するために、共分散構造分析を行った。分析結果より、各独立変数が「信頼」・「支援意図」に与える影響と、「信頼」・「コミットメント」・「知覚されたリスク」の媒介変数が「支援意図」・「共有意図」に与える影響が明らかになった。


 以上の本研究の概略を基に、第 2 節ではブランドアプリから配信されるクーポンに関する研究への学術的示唆を示し、第 3 節ではブランドアプリからクーポンを配信している企業に対して実務的示唆を示す。最後に第 4 節では本研究の今後の課題について述べる。


―第 2 節 学術的示唆―

 本節では、分析の結果と考察をふまえ、学術的示唆を述べる。


 第一に、クラウドファンディングにおける支援者の意思決定プロセスについて、インタビュー調査によって「知覚された楽しさ」や「企画者の情報」など独自かつ重要性の高い構成概念を加えた概念モデルを構築したことである。先行研究が少なく、理論構築段階にあるクラウドファンディングの支援メカニズムにおいて、本研究における概念モデルが基礎的概念モデルとなり、研究が進展することを期待する。


 第二に、クラウドファンディングがソーシャルコマースの一つであることから、従来の社会的交換理論に基づくアプローチに、「共有意図」という構成概念を組み込んだことである。先行研究では、支援意図までの社会的相互作用に着目する一方で、支援に伴う社会的相互作用である口コミに関する構成概念が考慮されてこなかった。ソーシャルコマースを考える上で、口コミは他の消費者の認知を促す重要な手段の一つである。今後の研究では、被説明変数として「支援意図」だけでなく「共有意図」も考慮することで、より現実の事象に近い概念モデルとなるだろう。


 第三に、本研究が、日本市場において、クラウドファンディングにおける支援者の意思決定プロセスについて統計的に分析した最初の研究の一つである、ということである。「知覚された実現可能性」が表すように、先行研究で指摘されていない、日本の消費者独自と考えられる構成概念まで考慮することで、今後の理論発展に貢献したと考えられる。


―第 3 節 実務的示唆―

 本節では、分析の結果と考察をふまえ、今後のクラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げる企画者と、プラットフォームを提供する企業に対する実務的示唆を述べる。


 第一に、企画者は企画の説明の際に、支援者の利益を強調するだけでなく、支援者の心を踊らせ、わくわくする企画だと知覚させることが大切である。支援者はこのような楽しさを感じた時のほうが、利益を感じた時よりも支援意図が高まることが明らかになっている。楽しさを感じさせる工夫として、企画ページのポジティブな言葉遣い、写真・動画の多用、SNSでの積極的なアピールなどが有効な手段として考えられるだろう。


 第二に、企画者は企画についての魅力的な説明だけでなく、情報開示や綿密なコミュニケーション、価値観のアピールにより、支援者の信頼を獲得することが大切であるということだ。特に支援者の中で 66 %にあたるとされる、直接的な知り合いじゃない支援候補者の信頼を獲得するため、情報開示は欠かせない要素であるだろう。


 第三に、クラウドファンディングのプラットフォームを提供する企業は、各企画者がより多くの支援を集めるために、支援意図を高めるユーザーインターフェース(UI)を提供する必要があるだろう。現在、日本の主要なクラウドファンディングサービスでは、企画の説明がページの大部分を占めており、企画者の情報は他のページへ遷移しないと詳細が表示されないことが多い。また、写真や動画を大量にアップロードできるだけのサーバーの体制も整えることで、企画者はより気軽に写真や動画を企画ページにアップロードし、支援候補者に楽しさを知覚させる機会が増えるだろう。


―第 4 節 今後の課題―

 本節では、今後の課題を示す。


 第一に、標本サンプルの偏りが挙げられる。本研究では、インタビュー調査の被験者の約 90 %、オンラインアンケート調査での回答者の約 75 %が 20 代に偏っていた。今後、特にソーシャルメディアをよく利用する 10 代・ 30 代を中心に、幅広い層に対して調査を行うことで、より普遍的な研究結果が得られると考えられる。


 第二に、クラウドファンディングのプロジェクトの分類を行い、それぞれの種類での支援者の意思決定プロセスについて焦点を当てる余地がある。今後の研究では、クラウドファンディングのプロジェクトの分類をし、調査をすることで、分類ごとの比較が可能となり本研究とはまた異なった知見が得られるであろう。

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Chika
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