能村登四郎全句集11 『長嘯』
能村登四郎の第11句集『長嘯』は、平成4年、登四郎81歳のときに出版されました。収録句数は440句。第10句集『菊塵』から3年での出版です。
この句集の冒頭の句〈霜掃きし箒しばらくして倒る〉は、2019年1月の『名句の所以』の出版記念イベント(下北沢のB&Bでの小澤實さんと堀本裕樹さんの対談)で、小澤實さんがナンバーワンの名句として挙げられていたように記憶しています。(わたしの記憶が確かならば……。)
前の句集よりも好きな句が多かったです。
霜掃きし箒しばらくして倒る
落ちる時椿に肉の重さあり
まさかと思ふ老人の泳ぎ出す
厚着してシート・ベルトの縛を受く
蓑虫の蓑をはなれて無名なり
わが他に老人のゐぬ年忘れ
胸あけて人にはやらぬ扇風
空蟬の背割れの内へくぼみをり
螢袋何に触れむと指入れし
鳥食に似てひとりなる夜食かな
初風呂にまだ泳げると泳ぎけり
蝌蚪ほどの誤植と笑ひとばしけり
好もしき葉の枯れ色の柏餅
腰骨が決める男の祭帯
考へてゐし露すべるすりがらす
いまセクト・ポクリットで俳句鑑賞の短期連載をしているのですが、俳句の鑑賞を書くために『名句の所以』(小澤實著)をよく読み返しています。