悲しみのレビュートーメン
レビュートーメンというブランドが好きである。正確に言うと好きだったというべきかもしれない。スイスにおける時計の歴史はとても古いが、それゆえに多くのブランドが創業者の手を離れて、同じブランド名のままに別の人達によって運営されているということはよくあることである。一度死んだブランドという意味でゾンビブランドなどと揶揄することもあるが、一からブランドを作り出すのがどんなに難しいことであるかを知っていれば、かつて活躍したブランドの歴史にすがりたくなることだって容易に理解できるだろう。
このレビュートーメンもそんなブランドである。ただ高級ブランドと違ってもともと普及価格帯の時計を売っていたメーカーだったから、様々な人の手に渡るも創業会社を離れて以降上手く行っているようにはとても見えない。
レビュートーメンは今から25年ほど前、まだブランドが身売りされる以前の時代に日本でさかんに売られていた時計だった。ぼくは学生時代マルイの時計売り場に飾ってあるレビュートーメンを指をくわえてよく眺めたものだった。そんな風にして欲しくても買えなかった時代があったせいで、レビュートーメンはいつもぼくの心のなかに一定の地位をしめていて、あの頃の思い出とともにぼくにとって特別なブランドになったのである。
社会人になって両親になにかプレゼントしたくなり購入したのがレビュートーメンだったのはある意味当然のことだったのだ。それから15年の歳月が流れた。
先日父が時計が動かなくなっちゃったといってぼくに返してきた。聞けば15年間一度もメンテに出したことがないというのだから止まるのは当たり前のことである。機械式時計は毎日使用するなら5年に一度はオーバーホールしたいものだ。その3倍も使い続けたのだからオイルはとっくの昔に飛んでしまって、部品の摩耗も結構進んでしまったのではないかと想像する。
とくに時計が好きではないひとに機械式時計をプレゼントしてはいけないという教訓である。はからずもぼくの手元に戻ってきたこのレビュートーメンは修理にだしてぼくが使うことにした。
ぼくの父は時計を手首の内側にするひとなので、風防がサファイアなのに傷だらけだ。サファイアでこれだけ傷がつくのだから普通のガラスやましてアクリルだったら見る影もなかっただろう。
時計はこの時代のものらしく裏スケだが、ムーブメントに装飾の類は一切なく、ローターにレビュートーメンの刻印があるだけである。ムーブメントはETAのCal.2824-2を使っているようだ。売価はたしか5、6万円だったと思うから搭載ムーブメントとしては順当なところだろう。
表の顔はなかなかに上品である。針が少し短いのが気になるが、全体的に端正な顔立ちであり、シルバーで統一したインデックスと針、そしてロゴがうまく調和している。文字盤の外周部を描くレコードトラックが個人的にはこの時計の華ではないかと思う。秒針が指し示すセコンドインデックスがこの時計を実用時計たらしめていて、意味のあるアクセントとして全体を引き締めている。
MSRグループ(レビュートーメンの創業母体)時代のいまや貴重なこの時計がこうしてぼくの手元に戻ってきたのは実に喜ばしいことである。普段使いの時計として活躍させたいと思っているが、さて一体修理代はいくらかかるのだろうか。今はそれだけが気がかりである……。
直径:37.5mm
厚み:10mm
ラグtoラグ:43mm
ラグ幅:18mm
3気圧防水
ムーブメント:ETA Cal.2824-2
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