家を飛び出したあとのはなし
行きたい場所を考えても思いつかず、半ばむりやり思い出して、図書館に向かった。図書館ではなるべく時計を見ないようにしてひたすら好きな写真集とか趣味本を眺めていた。
途中消防のサイレンが聞こえた。まさか、、と気になった。それからやっぱり子どもたちのことが気になって素敵な写真を眺めても思うほどとりつかれなかった。
それでも自分の気持ちが落ち着いていなかったから帰る気持ちにはなれなかった。
それからいよいよ夕方になった。いつもなら「母ちゃんお腹すいた」連呼に1秒でも早く応えるべく動いている時刻だった。図書館にも居づらくなって家の近くの公園に車を停めてぼんやり過ごした。
陽が落ちるとあたりは一気に暗くなった。どこかに移動する気力はもうなかった。
仕事を終えた夫から電話が来て、夫は帰らないの一点張りな私に苦笑いしてそのまま私のところに温かい飲み物を持って来てくれた。
夫と少し話して、モヤモヤがなくなったわけではなかったけれど、温かいカフェオレもあって少しだけ肩の力が抜けた。
そんな時長男から電話がきた。
「母ちゃん、、ごめんなさい。」
あまりうまく話せなかった。長男のケータイはスピーカーになっていて周りの音をひろっていた。
冷蔵庫を開ける音。
テレビの音。
台所の流しの音。
私が家を出たこと、何にも響いてなかった。
夫と聞いていて、二人で笑うしかなかった。。。
それから夫は子どもたちとの仲介に入るために家に帰った。
再び子どもたちから電話が来た。
その頃にはいいかげん自分でも馬鹿馬鹿しく思えていたので帰るきっかけをもらった気分だった。
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家に帰ると子どもたちはお風呂に入っていた。
夫が穏やかに言った。
「俺が帰ってきたら自分たちの部屋で(私に)電話してたよ。」
ちょっと驚いた。子どもたちは父に諭されたわけでもなく自分たちから二度目の電話を私にかけていた。
そして後からわかったことがあった。
長男が私に電話してきたとき、自分の食べるものを作っていたわけではなかった。
台所から聞こえた音は私が放置したたくさんの食器を洗っている音だった。
なんだか、もう、ごめんね。
あまり問題解決していないけど、もう家出はしないことに決めた。
今度同じことが起きたら「一人で遊びに出かける」ことにしよう。