神様、indigo la End がクリープをカバーする世界にしてくれて、ありがとう。
Xのタイムラインに流れてきた、「イト」の二文字。
私の中で「イト」って、あれだ。クリープハイプだ。社会人1年目の時に観た映画の主題歌だったから、2017年くらいか。そのイト?なんで今になって?
疑惑の「イト」は誰かがシェアしたSpotifyで、ポップなイラストが添えられていた。
リンクをタップして、Spotifyのアプリに移る。流れてきたのはUNISON SQUARE GARDEN のお馴染みナンバー「シュガーソングとビターステップ」のイントロ。
ツタツッタと刻まれるドラムのリズムに続いて、爽快なギターのフレーズ。ああ、シュガビタだ。え?シュガビタ?なんで?そう思うが早いか、曲は一転。異なるフレーズが流れる。
そのフレーズは紛れもなく、クリープハイプのイト。私が知っているイト。あのイト。え?何?何が起きているの?なんなの?
混乱する私を置いてけぼりにして、曲は軽やかにステップを踏むように続く。
いや、もう、イト。この歌詞はイト。どう頑張ったってイトでしかない。何?何が起きているの?さっきのシュガビタのイントロは何?え?
てか、歌ってるの、ユニゾンのボーカルじゃん。
ユニゾンのハイトーンボイスが、高らかにイトのサビを歌い上げる。
ええ。めっちゃ気持ちいい。何これ。脳からドーパミンがドパドパ16分音符を刻んで溢れ出す。いつかこの糸が千切れる"ま〜で"、とかユニゾンっぽいアレンジしてる。もはや歌詞が違うところあるし。いや、ほんと、何これ?
ストロングゼロを2本飲んだ時のような、くにゃりとした陶酔感のなかで曲はあっという間に終わった。てか、途中ベースの田淵さん歌ってなかった?
Spotifyの一時停止を押して、Googleの検索に文字を打ち込む。
「 ユニゾン イト クリープハイプ 」
わかったことは、どうやらクリープハイプが現メンバーになって15周年が経ったらしく、そのお祝いにトリビュートアルバムがリリースされたらしい。トリビュートって、なんだ?
再びGoogleに打ち込むと、ご時世らしくAIが答えてくれた。
ほうほう。なるほど。ミュージシャンに敬意を表して、そのアーティストの曲をカバーする。だからユニゾンがクリープをカバーしてるのね。
それにしても「捧げ物」だなんて、AIもまたエモいことを言う。確かに、ユニゾンの歌う「イト」はリスペクトの塊で、それは間違いなく「捧げ物」で、とても神聖な気持ちになれた。
「尊い」という言葉に音階をつけたらきっと、こんな曲になるのかもしれない。
トリビュートアルバムに参加したアーティストの名前を見て、心臓が跳ねた。
indigo la End
世間一般の皆さまに「川谷絵音って誰ですか」と聞いたら、8割の人が「ベッキー」と答えるだろうし、1割は「なんかゲスい人」と答えるだろう。
じゃあ、残り1割は?
高校生の頃、川谷絵音がギターボーカルをしていたバンドに出会った。「緑の少女」という曲を、ザラついてるのに透き通った声で高らかに歌っていた。バンドの名前は indigo la End というらしかった。
私も含めた残り1割にとって、川谷絵音は天才だ。天才すぎて、神様にさえ嫉妬されているような人だ。川谷絵音のことだから「自分のことを天才すぎて怖い」とか思ってるかもしれない。いや、思っていて欲しい。
福岡にツアーで来ると聞いて駆けつけた。キャパ200人程度の小さなライブハウス。整番もないライブハウス。必死に陣取って最前で見た。最前で見る川谷絵音は、思ったより人間の形をしていた。
「緑の少女」を歌い上げた後、拍手を浴びながら一度引っ込んだ川谷絵音は、再び現れたかと思うと、今度は「私以外私じゃないの〜」とかキテレツな曲を歌っていた。
そんなindigo la End がクリープハイプをカバーしている。曲名のところに「ABCDC」と書いている。ああもう。よりによって、その曲。心臓が震えたのがわかった。
おそるおそる再生マークの▶︎をタップする。ああ!indigo la End!カーティス!聴かなくてもわかる。このギターはindigo la End。やがて耳に飛び込んでくる、ザラついているのに透き通った、高らかな声。
ああ、いいなあ。indigo la Endなのにクリープハイプだ。いいなあ。なんて呑気に聴いていた私を、川谷絵音はグーでぶん殴ってきた。
さりげなく、半音下げてきやがる。
ああもう、こういうことするから。だから川谷絵音は、川谷絵音なのだ。一瞬で indigo la End になる。
最近のindigo la Endはおしゃれバンドとして有名らしい。でも、彼らの良さはもっと他にあると思ってる。
「緑の少女」もそうだし「渚にて幻」もそうなんだけど、indigo la End の曲って、青くて、にがい。まだ熟れていないりんごを齧ったような、青い、草の匂いがする。始まらなかった青春の匂いがする。なんか、苦しい。
そのにがさの正体、苦しさの正体を「ABCDC」で半音下げなんかしちゃって出してくる。だから嫌われるんだ、神様に。いや、嫌われていて欲しい。お願いだから。
なんだかこの辺りなんて、もう、尾崎さんと殴り合いしているみたい。トリビュートじゃなかったの?捧げ物はどこへ?神聖は?尊さは?
上の歌詞が川谷絵音で、下の歌詞が尾崎さん。それぞれの天才が、それぞれの葛藤と自負を持って叫んでいるのが伝わる。ああもう、好き。
でも2人とも、それぞれの温度感で人を愛するんだろうなあって。決して適切ではない温度感で、不器用にしか人を愛せない天才たちなのかも?ああ、好き。
神様、indigo la End がクリープをカバーする世界にしてくれて、ありがとう。
クリープハイプが現メンバーになったのが15年前らしい。15年も同じメンバーで音楽していてくれて、本当にありがとうって感謝でしかない。
私がクリープハイプにどハマりしたのは、高校2年生の頃。音楽とTwitterにしか居場所がなかった当時、クリープの音楽は麻薬のようで、ひどく愛していた。
SEKAI NO OWARI(世界の終わり)を聴いていたらクリープハイプに辿り着き、いつの間にか大学生になって indigo la End を崇拝し、当時の恋人の影響で UNISON SQUARE GARDEN を聴き漁り、別れた後に景気良く 10-FEET を聴いたり、就活が忙しくなって My Hair is Bad の新譜に追いつけなくなったりしていたら大人になった。
青くて、にがい青春が、流れていく。
始まらなかった青春が、次々に再生される。
いつしかライブに行かなくなり、「○月×日ライブ参戦」と意気揚々書き込んでいたTwitterは、いいねだけして終わり。好きなバンドの解散は知らないくせに、変なインフルエンサーの炎上は知っている。あのちゃんといえば、ゆるめるモ!だったのに、今じゃゲロチューの人らしい。
火曜日のタワレコで誰よりも早くフラゲしていたアルバムは、サブスクでしか聴かなくなった。コンビニに流れる有線で気づく。あれ、これ、クリープだ。
音楽から離れて、もう何年も経っていた。だからちょっと、怖かった。音楽から離れていた私が、大好きなクリープハイプのトリビュートを聴いて、置いてけぼりになるのが怖かった。
でもどうやら音楽は、私たちを置いて行ってはくれないらしい。トリビュートアルバムの栞を聴いて、イトを聴いて、手と手を聴いて、ABCDCを聴いて、一瞬で私は18歳になった。
18歳の時と同じく「クリープが好きだ」と思ったし、18歳のようなにがさで狼狽えるのではなく、大人として真正面から「ありがとう」と思えた。
トリビュート。過去の偉大なミュージシャンに敬意を表し、そのアーティストの曲をカバーすること。賛辞。捧げ物。
やっぱり、一生好きなのかもしれない。私からのトリビュートとして、感謝の言葉を死ぬまで捧げたい。死ぬまで一生愛されてると思っちゃって、構わないですよ。
15年もクリープハイプでいてくれて、ありがとう。
音楽が好きだと思わせてくれて、ありがとう。
ぜひ、覚悟して聴いてください。
追記:かわいいカーティス見て。
良かったってもんじゃないわよ。最高だわよ。
クリープハイプについては、こちらもどうぞ。
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