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小5の男子とケンカをした話


1か月程前、わたしは小5の男子とケンカをした。


学校でのことだ。
わたしは、小学校で、特別支援学級の支援員の仕事をしている。
小5の男子(Aくん)は、わたしが担当している知的クラスに在籍している。


1か月程前、担任の先生がお休みだったので、2時間目の授業として、別のクラスの担任の先生とわたしで、クラスの子たちを引き連れて図書室に行った。

図書室の先生が読み聞かせをしてくれて、みんな喜んで聞いていたのだ。しかし、Aくんはわたしの視界の端でもぞもぞ動いていた。

読み聞かせは2冊目に突入しており、Aくんは更に落ち着かないような動きをしていた。わたしは心の中で、「1冊頑張って聞いてたもんね。じっとしているの大変だよね。」と思っていた。よく頑張って座っているな、と思っていた。

しばらくすると、やはりじっとしているのに耐えかねて、Aくんは本棚の辺りまで歩いていき、うろうろ歩き回り始めた。

わたしは、
「これは、きっと声を掛けてほしがっているな。でも、ここで声を掛けてしまうと、良くないことをすれば先生が構ってくれると誤学習してしまう。ここはそっと見守るだけにしよう。」
と思って声は掛けなかった。


普段なら、それで終わりなのだが、
周りが気になるタイプの小1男子が(複数の学年が在籍する支援級なのだ)

「Aくん、歩き回ってる!!先生!!注意して!!」

と言ってきた。

ほかの子が気づいていなければ放っておこうと決めていたのに、1年生が気づいてしまったので、Aくんに声を掛けざるを得なくなった。
本当はここでわたしが

「ごめんね。Aくんは今落ち着かなくなっちゃったから、そっとしておこうと思って。わたしは見守っているんだよ」

と小1くんに言ってあげればよかったのだが、あまり喋ると読み聞かせの邪魔になりそうだったことと、歩き回るのを良しとしてしまうと下級生に示しがつかないな、と考えたこともあり、Aくんに声を掛けることに決めたのだ。


「Aくん、あと少しで読み聞かせ、終わるから、最後だけ聞きに行こうか」

とわたしが提案しても、Aくんは、わたしが来てくれたと喜んでしまったようで、わたしが近づこうとすると、本棚の合間を縫うようにして逃げるような仕草をした。構ってほしいのだ。


わたしは、それには乗らず、自分だけ自分の席に戻った。


するとAくんがわたしの目の前までやってきて、全員に1枚ずつ配られた本読みカードをわたしの目の前でわざと破り捨てたのだ。


わたしはAくんに、
「それはやってはいけないことだよね」
と強く言った。

すると暴言を吐いて逃げたので、本棚のところでつかまえて話をした。しかしわたしの話など全く聞かずに

わたしの顔に自分の足の裏を押し付けてきたのだ

わたしは、

ここで本気で向き合わなければ、この子はもうわたしを信用しなくなってしまう。
ダメなものはダメと伝え、どうしたら良いか一緒に考えなくては


と、頭の中ではそんなことを考えていた。


そのあと彼は図書室から脱走し、校内のどこかに行ってしまった。

すぐに図書室に一緒に来ていた先生に事情を説明し、教頭先生に報告してもらい、校内を探し回った。


Aくんはすぐに見つかった。
Aくんの方からこちらにもう一度戻ってきたのだ。しかし、「よかった」と思ったのも束の間、今度は昇降口で靴に履き替えて外に出ようとしたのだ

これはまずい


校内ならまだしも、校外に出られて事故にでも遭ってしまったら取り返しのつかないことになってしまう!!とわたしは

「だめっ!!」と叫んでAくんを急いで追いかけた。

すると、昇降口を出たところにある2段の階段にAくんが躓き、転がり落ちてしまったのだ。そして、膝をすりむいてしまった。


わたしはその状況を見て青ざめてしまった。
ごめんね!!ごめんね!!外に出て事故に遭っちゃったら大変だと思って、あなたを思って止めようとしたの。本当にごめんね!!」

と必死に謝った。


これは、わたしとAくんの静かなるケンカだった。お互いにふつふつと怒っていた。


結局、負傷したところでAくんも落ち着きを取り戻し、わたしも冷静になったのだが・・・
Aくんはわたしにも誰にも謝らなかった。

お気づきの方もいると思うが、
Aくんは完全にわたしを試していた

どこまですれば怒るのか、怒ったらどんな感じになるのか。絶対的な立場の担任の先生がいない日に、Aくんは以前も支援員を試すようなことをしていたらしい。


特別支援の仕事をしていると、こういうことはよくある。

この人はどんな人なんだろう。何をしたら怒られるんだろう。どのくらいわがままを言っても大丈夫な人なんだろう


素直な人たちなので、悪意があってそういうことをしていることは全くなく、相手のことを知りたいという素直な気持ちがそのような行動に表れているのだと思っている。

でも、わたしは彼らの友達ではないし、いけないことを、「まぁいいよ」と言ってあげることが優しさでもないので、毅然とした態度を心掛けるようにしている。

それが一番信頼関係を築けると思っているから。

しかし、Aくんと今後どうやって付き合っていったら良いか、心底悩んでいた。


それで、支援級の担任の先生たちに相談をしてみたのだ。
「わたしのような立場の人が、担任を差し置いてAくんを指導することはしない方が良いと思います。でも、Aくんがまた何か間違ったことをしてしまったとき、支援員として、どうしたらよいのでしょう」と。


すると、とても素敵なアドバイスをいただけた。

Aくんが落ち着いているときに、『あなたがそうやって落ち着いているとき、わたしはあなたとお話ができて楽しいよ』『あなたがいい子なのは、知っているよ』と伝えて、わたしはあなたの味方だよ、と教えてあげてください」
と。


あ!それならできそう!
と思った。



わたしは、それまで、もう4月から半年経っているし、Aくんとの信頼関係もだいぶできてきたと思っていた。
でも、よく考えてみたら、わたしが業務上多くかかわるのは1年生と2年生が多くて、5年生のAくんとはあまり濃いかかわりができてなかったのかもしれないと気づいた。


その日からわたしは、業間の時間になると、Aくんと毎日のように遊ぶようにした。Aくんはレゴブロックで遊ぶのが好きで、なんでも作れるほど得意だ。

今までは、たまにAくんと一緒に外に出て鬼ごっこをやったりすることもあったが、
レゴを2人で作る時間は話も弾んで、お互いがお互いのことを知れる良い時間になっていった。

Aくんは、落ち着かなくなってくると、暴言を吐いてみたり、物にあたってみたりするので、良くない面も目立つのだが、実はとても優しくて面倒見が良くて、面白いことが大好きなすごくいい子なのだ。

困っている人がいたら、真っ先に助けようとするし、体育で使った道具も誰よりもたくさん片づけてくれる。そういうときに、「ありがとう!!本当に助かった!!」と言葉を掛けると、はにかみながら嬉しそうにするAくんが本当に可愛らしい。


今日も2人でレゴをして遊んだ。最近Aくんは、業間になるとレゴを出して、わたしに「一緒にあそぼう」と言ってくる。
そして「今日は先生はセブンイレブンを作って」という無茶振りまでしてくるようになった。

落ち着いた時間の中でわたしは、今日、ずっと言おうと思っていた言葉を切り出した。

「ねぇ、Aくん。わたし、Aくんのことが大好きだよ。こうして落ち着いて話ができる時間が大好きだよ。とっても優しいAくんをいつも見ているよ。」

と。





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【ちいふく】男子三兄弟の母
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