木島先生の欲求の扉と、嘘の綻びの話【ポルノグラファー考察】
ドラマ『ポルノグラファー』
3話のキスと嘘劇場、4話の何やってんのかな、に関する考察。
相変わらず木島理生という人に囚われっぱなし。
リアタイ時、プライベッターに上げたものです。パッションのままに書き殴ったため、非常に長い。すみません。
今はこれよりもう少しドライに捉えていますが、記録として書いた時のそのままを載せておきます。
先生は本当に嘘つきつです。
とくに、城戸さんが突然訪れた時の先生は、本当に嘘の服をまとって立っているみたいだな、と思いました。
まず、先生は城戸さんに嘘をつく。
「なに考えてんだよ、だいたいそこまでしなくても…」って苦言を呈そうとする城戸さんに、先生は「いいだろ」と遮って、「せっかくまとまってきたアイデアはすぐに形にしたいじゃない」と言う。それって、城戸さんに書けるかもしれないと匂わせることですよね。
いつも息をするように嘘を吐く先生だけれど、ここの偽りは少し意味合いが違う気がする。先生が、城戸さんとの電話で激昂したのは、間違いなく創作のこと絡みだと思うのですね。例えば、書けない理由を無神経な言葉で謝られたとか、本音を理解しない的外れな物言いが作家としてのプライドにさわったとか。書けないことは、二人の間でも今までの関係とも絡んだデリケートな難題なわけですよね。それなのに、先生は、書けそうなアイデアがある、という。それはけっこう大きな欺きだと思うんですよ。創作に関わる嘘って、すごく自尊心や自身を揺さぶることになりませんか。だって、日常生活を二の次に、小説しか書いてこなかった、いわば創作が全てであったような先生なのに。その一線を簡単に踏み越えてしまった、重大性を考えてしまうわけです。そしてやはり、先生にそれをさせたのは、久住くんの存在だ、と思うわけです。
不誠実だと言われても、城戸さんに余計な口は挟ませたくなかった。先生は、そもそも、城戸さんは創作のことを持ち出されると、強く出られないことをわかっていますよね。それを知りながら黙らせるところが、先生のしたたかさだし、向き合わない城戸さんと同じくらい狡くて、かわいいところかな、と。
そして、書けない苦渋をだしにしても、失いたくないものがあった。先生は、そうまでして久住君との関係を終わらせたくなかったんだな、と、思いました。
それに、先生が城戸さんと仲良さげに振舞うことも、久住君に対する一種の嘘だったんだろうって思いました。
実際は城戸さんともしばらく連絡を取っていなくて距離を置いていた。
スランプの原因を作った城戸さんに優しく気遣われるほどに、追い詰められて惨めになる、遠ざけたいけれども、唯一書くことを待っていてくれるのは城戸さんだったわけで。書けなくて荒れた泥沼の後の小康状態の危ういバランスの渦中であるのに、それが、何ごともなかったようにあんなあからさまに仲良さげなはずがない、と思ったりして。
(それは城戸さんにとっても満更でもなかったから、あえて壊さなかったんだろな)
本当のズタボロの顔を隠して、平気な顔を装って煽ってみたりする、久住君への見せつけ。きっと面白くない顔をするであろう久住君の素直な反応を感じて、城戸くんを前にすると捻くれそうになる心の釣り合いを保ちたかったのかもしれない。興味本位の枠を超えて、複雑な心の裏返しだったんだと思いました。
でもそこで、先生は三人で飲もうというのがもう、嘘劇場に動じない先生らしいというか。嘘つきな先生の気まぐれと、城戸くんへの少しの当てつけと、久住くんへの戯れがない交ぜになっている感がいい。
久住くんを試しているように見えて、その実、あれは城戸くんへ仕掛けているようでもあり、それこそ久住君の妄想の言葉を借りれば、“連れ込んだ若い男”だよ、まぁ、君は家庭がある身だろうしなんとも思わないんだろうけど、的な感じがする。
先生は、城戸君との昔話をして、同時にきっと城戸君との間にあったあれこれや、胸底の燻りやほろ苦さなんかも蘇ったんだろうな。そのもつれた糸の始末ができないままに。
城戸さんもまた、そんな先生の振る舞いの源にある感情に気づいて乗ってやって、けれどもそんな先生の心に対しては、どうしようともしてこなかった城戸さんなのですよね。
それなのに、久住君には「こいつとは、あまり深く関わらない方がいい」「我儘だし気難しい奴だから、俺みたいに振り回されないか心配してるのさ」なんて言うんですよ。このなんたる余裕匂わせ系、、(って久住くんは思ったでしょうね)まぁ、実際は悪事の秘密を知っている第三者として久住くんを気の毒に思ったが故の忠告ではあるのですが。
でもこれ先生、聞いてるよね。だから「きどー帰るの」って起きて呼び止めましたよね。なに格好つけて言ってんの、おまえ。邪魔しないでくれるかなって言ったよね。それに、振り回されてるのはこっち、って若干腹立たしかったんでしょうとも。そういうことなら我儘言ってもいいよねっていう、あの甘えモードなんじゃないかっていう気がしています。勘ぐりすぎかな。
話しが大分ずれてしまいました。
つまり何が言いたいのかと言うと、城戸さんへの煩悶と、久住くんといることの心地良さを手放したくないと自覚したことへの当惑に、止めていたお酒が過ぎてしまったんではないかと思ったのでした。
そして、あの久住くんとのキスは、心の奥の天秤を揺らしていた先生が、やってしまったことだということです。酔いに任せたことにして、「ねぇそれだけ?」って久住君を誘ってしまった。先生は、冗談に混ぜて曖昧にしてきた関係に、ここで、自分から一歩を踏み出してしまったんだな。しかもそのキッカケは明らかに城戸くんの登板だったわけ。純粋な久住くんへの恋心からだと言いきれない、このうしろめたさ。久住くんを確信犯的に煽ったら、思いどおりにこちら側へ落ちてきてしまった愉悦。あの口づけには、なんだかとても背徳的な香りがする。
ここで一つ、このキスの後はどうなったんだ、って考えてしまう妄想脳なんだけれど。原作とドラマで描き方が違うところでもありますね。原作だと、「舌って分厚いんだね」から久住くんが思い描いたのは、キスのその後の回想とも受け取れる気がします(「どうなっても知りませんよ」の後、何かする間もなく先生が寝てしまう。結局キス止まりなので、翌朝の「キスしてしまった」も不思議ではない)。でもドラマだと、久住くんの妄想が回想だとすると、翌朝、「キスしてしまった」にはならない、と思うんですよね。「先生にあれしてしまった」みたいになるでしょと思う。だから、ドラマでは久住くんが攻めていたのは妄想だったってことで、いいのかな。
さらに前置きが長くなりましたが、ということは、あれだけ情熱的なキスを交わして、それだけで終わったということですよね。おやすみ、ってぶった切ったか、寝たふりをしたのかな。いずれにしても久住くん、超混乱したと思う。結果的にそれ以上の関係にはならなかった、ということは、それ以上先生が踏み込ませなかった、ということでもあるのかなって。(原作が回想だとしたら、もっと流され侍的な色合いが濃くなるけど)
でも先生は、翌朝、「全然覚えてないんだけどね…」ってもっと手前に線を引き直そうとするのですよね。先生は先に起きて久住くんの寝顔を見つめながら、(どうしようかなぁ、なんであんなことしのか、やっぱりなかったことにしよう)って考えたんだと思います。
なんで先生が、なかったことにしようとしたのか、その心中を想像すると、先生の孤独と闇が口を開けている気がして、ぞわりとする。
本来、来るもの拒まずの先生が、自分から求めたりしない先生が、自分から久住くんを求めてしまったんですよね。酔っていたとはいえ、自制できなかった。城戸さんの未練を久住くんの心地良さで塗り替えようとしている自分に気づいてしまった。
きっと先生は、行動してしまってはじめて、ふと我に返ったんだと思う。行動の一つ目は、城戸くんに嘘をついて口止めしたこと、二つ目は、3人で飲もうと提案して嘘劇場を引き延ばしたこと、三つ目は、久住くんの口づけをそのままにできず、その先へと誘ってしまったこと。
こうした能動的な行動が、はっきりと、先生に久住くんへの執愛を自覚させたんだと思う。傾いていた心が、一気に表面化して、久住くんへの情動を認めざるを得なくなった。あれだけ城戸くんに囚われて、欲望を押し込めていた先生が、わずかにその欲を解放してしまった瞬間でもあったんだと思うのです。
だから、先生は、慌ててその扉を閉じねばならなかった。欲望のままに任せてしまったら、久住くんを二度と離せなくなってしまうから。その気配は、こうしたい、こうされたい、と望むことであり、愛欲であり、創作意欲繋がるものである。そこに踏み出してしまったら、二度と後戻りはできない。この恋に踏み出すのは恐ろしい、禁忌だと、木島先生は本能的に感じ取ったんだと思うんです。
まだこの時は、危機感に漠然と踏みとどまったのかもしれないけれど、後々、久住君の将来に関わる発言によって、明確にその絶望を突きつけられることになるんですね。久住くんは、将来のある若者で、こんな底辺作家の蟻地獄に引きずり込んでいい相手ではない、ということを。
そうやって、先生は後ろめたさと罪悪感とひたひたと忍び寄る鎖の影を、全部なかったことにしようとしてみたわけですが、久住くんがあまりにしゅんとして、「先生は、あんまり飲まない方がいいですよ」なんて言うもんだから、可愛くて(何事もなかったように忘れたふりだけすることだってできたのに)つい「忘れてよ、全部」ってつい言っちゃったんじゃないかな。そういう、ストイックになりきれない、すぐ流されてしまう先生の弱さみたいなところが愛おしいです。
そして、それらをぜーんぶぜんぶひっくるめての「何やってんのかな、僕は」が、もう最高に、ほんと、何やってんのかな、って感じがして胸がぎゅっとなるわけです。この言葉には、先生の懊悩の全てがつまっているように感じてしまうのです。
木島先生の嘘がどんどんと、ほころんでいってしまう。そのトリガーの瞬間が、あの一夜の出来事だったんじゃないかと思いました。
(2018年9月18日稿)