VIができるまでのプロセス 「農業情報設計社」編
北海道の東側、港町「釧路」でグラフィックデザインをしているchihoshです。
私が業務委託でフルリモートでデザイン支援している北海道帯広の農業ITベンチャー「農業情報設計社」のVI(ビジュアル・アイデンティティ)を作成したときのプロセスを公開します。
会社立ち上げ当初は、代表の濱田氏が自作したロゴが使われていました。
このロゴも優しい雰囲気で良かったのですが、事業拡大にあたりロゴを刷新したいとのことで、新しいデザインを提案しました。
まずはターゲットユーザーを設定します。 「誰」に向けて届けるサービスなのか、なるべく具体的に属性を挙げていきます。通常は仮説ベースで進めていくのですが、今回は農業情報設計社の主力商品「AgriBus-NAVI」の情報交換やユーザー同士の交流を目的としたFacebookグループ「AgriBus-NAVI友の会」が存在し、ユーザーである農家さんがかなり活発に投稿をしてくださっていたため、特にアクティブに書き込みをしている方を2名挙げさせてもらって、属性を抽出していきました。
次に、ポジショニングマップを使って現在の立ち位置を明確にします。 ここは認識を共有するためのものなのであっさりめに。大規模化・大型化して先行投資がかさんでしまうこれまでの保守的な農業ではなく、小規模化・小型化し、誰にとっても使い勝手のいい製品をITの力で届けるという先進性が農業情報設計社の立ち位置であることを改めて確認します。
次に、ターゲットユーザーとポジショニングを元に、ブランドコンセプトを定義します。いきなりロゴを作成するのではなく、最初にコンセプトを定義することで、「そもそも」に立ち返ることができ、ビジュアルに一貫性を持たせることができます。
ここでは、ターゲットユーザーから導き出された「論理的、合理的」というキーワードや、ポジショニングマップで確認した「小規模化・小型化」というキーワードを元に、「小さな単位の集まりが組み合わさる・連携することで成長していく」という意味を込めて、「拡張性 scalable」をコンセプトとしました。
さらにコンセプトを元に、ブランドコピー(キャッチコピー)を導きます。 先ほどの「拡張性 scalable」を一文にして、「scalable your farming」としました。
次にブランドカラーを決めていきます。 ここでは日本カラーデザイン研究所の「5色配色イメージ・スケール」というマトリックスを使っています。キーワードを配色に変換できる優れもので、このイメージスケールを使って配色を検討していきます。
これまで抽出したキーワードに近い単語(合理的、革新的、進歩的、理知的)をスケールにあてはめていくと、右下の「モダン」というエリアにマッピングされることがわかりました。 ちなみに旧ロゴのカラーをスケールにあてはめると、「ナチュラルな、安全な、快適な」といったキーワードに変換されることから、配色の面から見ても、打ち出したいイメージへ軌道修正する必要があることがわかります。
(ブランドイメージがわかりやすい企業として、ヤンマーのロゴもマッピングしてみています。ヤンマーは直接の競合ではないですが、競合をマッピングすることで自社のポジショニングを配色からも確認することができます)
先ほどのイメージ・スケールを元に、「この色の組み合わせを使えばブランドイメージが統一される」という3色をピックアップします。
そしてロゴを3案提案しました。まずはA案。 ブランドコンセプトである「拡張性」を元に、十勝の畑のパッチワークや畝・トラクターの跡などから着想を得た案です。 名刺や封筒、ウェブサイトなどの展開例も作成して、ロゴが使用された状況がイメージしやすいようにしています。
次はB案。「Agri Info Design」の頭文字をブロックのようにモダンに組み合わせた案です。
そしてC案。農家さん同士の有機的なつながりとAgriの「A」を組み合わせてイメージを膨らませた案です。テック企業っぽく。
実は私はB案が個人的に気に入っており、パーツの組み合わせを一番試行錯誤したのもこの案でした。
が、代表濱田氏と初期メンバー田名辺氏とビデオ会議で議論した際、「別にAとかIとかDとか頭文字にこだわる必要は無いよね」ということで(確かに…)、A案をブラッシュアップしていくことになりました。
時にはビデオ会議で私の画面を2人に共有して、その場でIllustratorファイルを開いて「もう少し色をこうしたらどうかな?」と、色味を微妙に調整していきました。ライブデザイン。
その結果決まったのがこちらのロゴです。
それぞれの色にも役割を持たせました。
緑:農作物を表現
青:空を表現
黄土色:大地や穀物を表現
また、モノクロにしたときに成立するようにストライプ部分の調整も行いました。
シンボルマークはいくつかパターンを作って、組み合わせて使えるようにしています。(いくつか並べると畑のパッチワークが広がっていくようなイメージ)
農業情報設計社の商品「AgriBus」の名前でステッカーも作りました。農家さんがトラクターに貼ってくれたのを見たときはちょっと感動。
今回はロゴができるまでの経緯を書いてみました。
デザインができるまでにデザイナーが何を考え、どういうプロセスで、何をしているのか、可視化することで表面的に見えるかたち以外のところの価値を知ってもらいたいと思っています。
これからデザインのプロセスや解説を更新していく予定です。マイペースすぎるので次の更新は一体いつになるのか。気が向いたらまた書きます。