音楽ニュース:今年のバイロイト
昨日7月25日はいつもであれば『バイロイト祭』の開幕日でした。しかしコロナ禍で今年は中止されました。
バイロイト祭と中止については以前の私の投稿をご覧ください → https://note.com/chihomikishi/n/n66072f9e66a3
ドイツでは毎年、開幕日の様子を全国ニュースでとりあげます。中止になった今年も同様でした。
その中で、今年はクリスティアン・ティーレマンがバイロイトのヴァ―ンフリート荘(ワーグナーの住居)で小編成のオーケストラを指揮、ヴァ―ンフリート荘前の庭園に聴衆が集まるという催しが報道されていました。
またフェストシュピールハウスは三密の最たるもので、来年の開催も危ぶまれること、さらにカタリーナ・ワーグナーの病気もあり、大きな転換点を迎えていることなどが伝えられていました。
カタリーナ・ワーグナーの病気についてはバイロイト祭は公式には「快方に向かっている。秋には復帰できると思う」という発表をしています。
今年、バイロイト祭は、放送局のBRや3satと協力し、またストリーミングで過去の上演などを放映します。詳細は以下のサイトです。
https://www.bayreuther-festspiele.de/
昨日、3sat で放映された《ラインの黄金》(1991年、ハリー・クップァー演出、ダニエル・バレンボイム指揮)とそれに続く「バス歌手ギュンター・グロイスベック」のドキュメンタリー番組をみました。
グロイスベックは今年の《ニーベルンゲンの指環》新制作のヴォータン役でした。ただコロナ禍で新《リング》は2022年に延期されました。彼はヴォータン役のオーディションを2015年に受けて抜擢、それから5年間この役の勉強を重ね、準備してきました。それがあと2年延びたわけです。
その頃、声がどうなっているか・・・
歌手のキャスティングというのは非常に難しい問題です。通常、決定は遅くとも2~3年前なので先行きを見越して決定する必要があるからです。今は歌えても、3年後には無理、あるいは本人が歌いたくない役もあります。逆に、今は無理でも、声の質、力量を予測して3年後には歌える役が往々にしてあります。それを見極め、歌手とよく相談してキャスティングするのがプロの仕事です。
これは歌手に限ったことではありません。
また有名だから、スターだからといって何でもできるかというと、それは大間違いです。バイロイトは「実験劇場」なので、前向きな実験を多く重ねています。厳しい批判もありますが、それは当然のこと、多くの人が真摯に受け止め、見守り、助け、育てていく場所でもあります。
しかし1年限りでバイロイトから姿を消すアーティストも多くいます。最近の例ではスター指揮者ヴァレリー・ゲルギエフが挙げられます。
ゲルギエフは昨年の開幕《タンホイザー》新制作指揮しました。昨年のバイロイト総括を『音楽の友』2019年10月号に書きましたが、ゲルギエフ指揮の該当部分については以下のとおりです。
昨日、偶然会った隣人が「私の父なの、ワグネリアンなのよ」と言ってお父さんを紹介してくれました。この方は1961年からバイロイトを観ているそうです。彼に、「昨年の《タンホイザー》ご覧になりましたか?」と言われ、「はい、私はプレミエでしたが、いつご覧になりましたか?」と答えたところ、「私が観た時、開始前に『今日は、指揮のゲルギエフさんが都合で指揮できず、代わりにティーレマンさんが飛び込みます』というアナウンスがありました。いや、観客の大歓声のすごいこと!バイロイトでブラボーの大嵐、しかも上演前というのも経験したことがありません!」と興奮気味に話していました。
この話はメディアでも大きく報道していましたが、実際その場にいた人からの報告でした。
バイロイト祭のない夏は「気の抜けたシャンパン」のような気がします。
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