音楽、文化と歴史の話:文化の街、エッセン

6月28日、エッセン・フィルハルモニーで行われたコンサートに行きました。オーケストラはエッセン・フィル、指揮は同管主席兼エッセン・アールトムジークテアター音楽総監督のトマシュ・ネトピル、ソリストにヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンを迎えました。
プログラムはコロナ対応のため、1時間という制限があるので、ベートーヴェンのバレエ序曲≪プロメテウスの創造≫と≪ヴァイオリン協奏曲≫でした。

コロナ対応のため、聴衆数は300人まで、それでも許容人数が広がっています。出入口は制限され、座席の場所によってはホールの後部までぐるっと回らなければなりませんでした。

さて、エッセンというと鉄鋼の街というイメージが強いせいか、「文化は何もない」という言をよく耳にします。事実はまったく違います。エッセンの文化的充実度とレベルはとても高いものです。中央駅からわずか徒歩数分で、オペラハウスとコンサートハウスに着きます。この二つは広大な公園の中に建っており、一流ホテルも隣接しています。

その先にはフォルクヴァンク美術館という素晴らしい美術館があります。
https://www.museum-folkwang.de/

音楽関係は、エッセンのTUPという組織がオペラ、バレエ、演劇そしてコンサート・ホールであるフィルハルモニーを統括して経営しています。
https://www.theater-essen.de/

オペラハウスであるアールト・テアターアルヴァ・アールト(Alvar Aalto)の設計によるものです。アールトはフィンランド出身、20世紀を代表する建築家の一人です。アールトは1959年にコンペにより、オペラハウスの設計をすることになりましたが、1976年に亡くなり、オペラハウスの完成を見ることはできませんでした。彼の死後、ハラルド・ダイルマンがその遺志を受け継ぎ、1988年、アールト・テアターは完成しています。

このアールト・テアター、数あるヨーロッパのオペラハウスの中でも、私が最も好きなオペラハウスのひとつです。音響がクリアで透明、聴きやすいこと、空間が広く、客席のどこに座ってもよく見えること、フォワイエの作り方が洒落ていて明るいことなどが理由です。加えると、駐車場が劇場地下にあり、収容台数が多いこと、無料であることも魅力です。

もちろん上演のレベルが高いことは言うまでもありません。バロックから現代作品まで優秀な演出家を招いて質の高い公演を続けています。
ちなみにまだそれほど有名ではなかったバリー・コスキーの演出を数多く見たのもこの劇場でした。コスキーがここで演出した≪トリスタンとイゾルデ≫(新制作2006年)は、これまで私が観た≪トリスタンとイゾルデ≫の中で最高傑作です。

資金的には決して恵まれていないエッセンでこれほどの上演が続けられるのは驚異的です。


さて、コンサート・ホールは1904年に建ったザールバウ(Saalbau)が長らく使われていました。ちなみに、ザールバウの杮落としではR.シュトラウスが指揮台に立っています。またザールバウでは、マーラーが自身の指揮で≪交響曲第6番、悲劇的≫を世界初演しています(1906年)。

戦争で被害を受けたあと、直しながら使っていたのですが、2004年、エッセン・フィルハルモニーとして生まれ変わりました。大ホールは1900席、『アルフリート・クルップ・ザール』(Alfried-Krupp-Saal)と名付けられています。

ところで、アルフリート・クルップ(Alfried Krupp von Bohlen und Halbach)は最後のクルップ財閥当主です。
エッセン郊外にあるクルップ家の屋敷ヴィラ・ヒューゲル(Villa Hügel)には大砲の供給をめぐってドイツ皇帝ヴィルヘルム2世やヒトラーも訪れました。私の印象は「壮大な二世帯住宅」ですが、ドイツの一企業と20世紀の歴史について考えさせられる場所です。クルップ家、そしてアルフリート・クルップについては本や映画、ドラマもたくさんあります。

戦争犯罪人として服役後、恩赦を受けて復帰したアルフリートはまずベルトルト・バイツ(Berthold Beitz)を招き、会社の全権を委任します。なお、バイツは戦時中もユダヤ人を救ったということでイスラエルから「諸国民の正義の人」として位置づけられています。

バイツさんは1913年生まれ、2013年に亡くなりました。100歳の誕生日パーティーに招待状を自分で書いていたそうです。
このバイツさんをアルフリート・クルップ・ホールでのコンサートで見かけたことがあります。バイツさんが客席に入ってくると、気付いた聴衆がみんな立ち上がり、大きな拍手で迎えていました。


こちらはアールト・テアター(の裏側)です。フォワイエに続く2階部分バルコニーではミニコンサートが行われていました。オペラ専属歌手がピアノ伴奏でオペレッタのナンバーを歌っていました。

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こちらは公園の中です。

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コンサートホールであるエッセン・フィルハルモニー。プログラムの素晴らしさでドイツ一に選ばれたこともあります。ホームであるエッセン・フィルの他、超一流のオーケストラが登場しています。

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右側がオペラハウスのアールト・テアター、左側がコンサート・ホールのフィルハルモニー。いつもは立ち入り禁止の場所はないのですが、コロナ対策のためか、紐が引かれていました。

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Foto:© Kishi


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