音楽・文化ニュース:セレブレンニコフ有罪判決とドイツの反応
6月26日付の報道によると、映画監督・演出家のキリル・セレブレンニコフに対し、モスクワの裁判所は有罪判決を下しました。禁固3年、執行猶予付きです。この他、1.7百万€(約2億円)の返金、また、セレブレンニコフがドイツに所有しているとされる住居、車、宝飾品合計10万ドル相当が差し押さえられるという報道もあります。検察は6年の禁固刑を求刑していました。(6月26日、Klassik.com)
セレブレンニコフは17年春、公金横領の罪で逮捕され、自宅軟禁状態でしたが、18年11月には裁判が開始され、19年には自宅軟禁を解かれたものの、モスクワを出ることは禁じられていました。18年のカンヌ映画祭に出席できなかったことを記憶している方もいらっしゃるでしょう。
セレブレンニコフと共に、アレクセイ・マロブロドスキィ(プロデューサー)、ソフィア・アプフェルバウム(モスクワ・ユースシアターのダイレクター)、ユーリ・イーティン(『第7スタジオ』元ダイレクター)とゴーゴリ・センターに関係の深い3人(全員ユダヤ系)も起訴されていました。
セレブレンニコフの経歴については、以下のブログに詳しく出ています。
映画監督としても有名なセレブレンニコフですが、ドイツではオペラ演出家としても活動しています。17年春の逮捕直後、ドイツ劇場協会、ベルリン・コーミッシェ・オーパー、シュトゥットガルト・オペラなどが公開で反対声明を出していました。
また、この3年間、世界の映画界、演劇界は数々の抗議活動をしていました。女優のケイト・ブランシェットなども積極的な抗議活動をしていました。
ユダヤ人の外科医を父に、ウクライナ人の教師を母に持つセレブレンニコフは大学では物理学を専攻しました。特に舞台関係の教育を受けたわけではないのですが、25歳で演劇の演出家としてデビュー後、大きな注目を浴び、反体制派の象徴的存在となっていました。セレブレンニコフは12年、モスクワのゴーゴリ・センター芸術監督に就任しますが、この年、プーチン大統領が再選され、状況は一変します。反体制と反宗教に対する締め付けが厳しくなり、この年、『プッシー・ライオット』事件も起きています。
さて、セレブレンニコフがオペラ演出を手掛けたのは、ベルリン・コーミッシェ・オーパー(KOB)、シュトゥットガルト・オペラ、ハンブルク・オペラ、そしてスイスのチューリヒ・オペラです。中でも最も近い関係にあるのはKOBです。
◎KOBでの演出は、ノイヴィルト作曲≪アメリカン・ルル≫(12年10月)、ロッシーニ作曲≪セヴィリヤの理髪師≫(16年10月)、そして今年6月プレミエ予定だったストラヴィンスキィ作曲≪放蕩者のなりゆき≫です。
KOBでの≪放蕩者のなりゆき≫新制作の準備について、3月、KOBに尋ねたところ、セレブレンニコフはモスクワからの外出が禁止されているため、ネットでのやりとりとアシスタントの手伝い、場合によっては歌手をモスクワに送って準備する、ということでした。
新制作を楽しみにしていたのですが、コロナ禍でそのプレミエもなくなってしまいました。
◎シュトゥットガルト・オペラでは、R.シュトラウス作曲≪サロメ≫(15年11月)、フンパーディンク作曲≪ヘンゼルとグレーテル≫(17年10月)。
◎ハンブルク・オペラではヴェルディ作曲≪ナブッコ≫(19年3月、美術と衣裳も手掛けています)。
◎チューリヒ・オペラではモーツァルト作曲≪コジ・ファン・トゥッテ≫(18年10月)。
自宅軟禁になってからの演出の仕事は、USBスティックを利用したり、アシスタントが手伝っていたそうです。
さて、『公金横領罪』と言っても、その内容と理由ははっきりしていません。ドイツ劇場協会も判決に反対のステートメントを出し、ドイツのメディアでは「『公金で補助している以上、現政権を批判する・反対するような演出や芸術活動は許されない』とは、非常に遠い世界だ。公は公金を出して表現の自由を守らなければならない」と、判決に対し、批判的なコメントと共に報道しています(6月26日、WDR3)。
それでも6年の禁固刑の求刑が執行猶予付きの3年になったことは、国際的な抗議活動の成果と言えるかもしれません。裁判開始時には10年の禁固刑が予測されていました。
しかし、まだこの先どうなるか、予断を許さない状況です。
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