ウエスト・サイド・ストーリー
2021年
監督・製作 スティーブン・スピルバーグ
出演 アンセル・エルゴート
レイチェル・ゼグラー
事前に1961年ロバート・ワイズ版の『ウエスト・サイド物語』を視聴してから、IMAX劇場にて鑑賞。
抑えようのない感情の動き
本作で1番心を動かされたのは、トニーとマリアが初めて出会うダンスホールのシーン。
マンボの曲に合わせ、ジェッツ&シャークスが激しくダンスに興じる中、お互いを見つけたトニーとマリアは目を逸らすことが出来なくなる。
背景ではマンボの激しく軽快な音楽が流れるなか、トニーとマリアに少しずつズームアップし、照明が当たり始め、2人だけの世界が周囲の世界から乖離していく。
マンボの世界からトニーとマリアの2人だけの世界に移行する一連の流れが、シームレスかつ、ややじれったいくらいゆっくりと描かれるため、観客の心はダンスシーンで興奮した気持ちから、2人が出会うシーンの息を呑むような緊張感、そして陶酔感へと自然に移行することができる。
この時筆者は、何の感情なのかわからないが、みぞおちから胸にかけて自然と込み上げてくるものを感じ、抑えようもなくそのまま落涙するという体験をした。
ストーリーは旧作を観て知っているし、ダンスホールのシーンも旧作と基本的な演出は同じだったと思う。
にもかかわらず本作でここまで心を動かされたのは、やはりストーリーとは無関係に、観客の心を動かす演出が駆使されていたのだろう。
どんな演出が施されていたのか、一つ一つ分析できる程の映画リテラシーは筆者にはないが、一つ挙げられるとしたら照明の効果があると思う。
トニーとマリアがお互いを見つめながら、少しずつ照明がこの2人に絞られていくことで、同時に観客の心も2人の感情の動きに興味が惹かれていく。
さらに無言で2人は歩みよる際、トニーとマリアの目の辺りに一瞬だけ照明が当たる。
それにより、2人は視線で語り合うかのように、照明が2人の気持ちを代弁する効果を発揮し、2人の間の感情の交流が視覚的に感じられるようになっている。
内面が描かれたスピルバーグ版
本作は旧作と比較して、社会背景や人物背景の描写がより丁寧に描かれていた。
セリフシーンで演者同士の掛け合いの中でテンポ良く描かれているため、セリフシーンがダレることなく、ミュージカルシーンとは違った感情の動きを、セリフシーンでは味わうことができる。
かつ、ミュージカルシーンとセリフシーンが継ぎ目なく展開していくため、本作の2時間半の間、観客の心が映画の流れから置いていかれることがない。
虚勢を張っているように見えるジェッツも、実は親も自立しておらず、恵まれない環境で育っているし、本物の拳銃を目の前にするとビビったりする。
映画後半ではそんなジェッツの悲哀や幼さが描かれており、最後の決闘シーンも旧作では感じられなかった、ジェッツたちの内面を想像しながら観ることができた。
p.s
映画館でみてここまで心動かされたミュージカル映画はラ・ラ・ランド以来でした。
極上の映画体験でした。
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