tick, tick...BOOM!

2021 Netflix 
監督: リン=マニュエル・ミランダ
音楽: ジョナサン・ラーソン
出演:アンドリュー・ガーフィールド

名作ミュージカル『RENT/レント』を生み出した実在の作曲家ジョナサン・ラーソンを主人公にした自伝的ロックミュージカル『tick, tick... BOOM!』の映画化。


30歳は人生のデッドラインか

29歳から30歳を迎えるとき、まるで広くて深い川を渡らなくてはならないかのような想いになる。

渡ってしまったらもう引き返すことは出来ない。

そして30歳から先の人生など想像が出来ない。

30歳になってしまったら死んだも同然、何故だかそんな気持ちに襲われて悲嘆にくれる。

筆者は30歳を迎える前、そんな気持ちを抱いていたが、この映画の主人公ラーソンも30歳を目前に焦っていた。

いざ30歳を迎えてしまえば、なんということはない、これまでと変わらぬ毎日が続くだけ。

ラーソンにそう伝えてあげたいが、焦ってしまう気持ちもよく分かる。

30歳ともなると、才能のある人は世間に名を馳せ有名になっているだろうし、一般的なサラリーマンでさえ、大きな仕事の一つや二つは成果をあげていたり、役職につくような人も出てくる。

では自分は…?

そう思ったら最後、30歳を迎えるまでの日々を、時限爆弾の秒針の音とともに生きていくことになる。

向き合えなかった彼女とのデッドライン

主人公のラーソンは、自分がもうじき30歳を迎えてしまうことに焦り、それまでに8年間描き続けてきたミュージカルを成功させなければ、ということで頭がいっぱいだ。

そんな中、恋人のスーザンは田舎町でダンス教師になろうと考えており、ラーソンに相談を持ちかける。

しかし、ラーソンは自身のミュージカルを完成させることを優先させ、スーザンが就職先に返事をしなければいけない日までに、彼女との将来について向き合うことが出来なかった。

自身の30歳という虚構のデッドラインに囚われたために、彼女との将来を決断すべきデッドラインを守ることが出来ず、結果彼女と離れてしまうこととなった。


本当に向き合うべきデッドラインとは

彼女との別れを後悔しながらも、どうにかミュージカルを完成させ、ラーソンは試聴会を成功させる。

30歳を目前についに大きな仕事を成し遂げ、これからチャンスが舞い込んでくると期待していたラーソンだが、世間は彼の次回作を期待するといい、すぐに成功を手にすることが出来なかった。

8年間でやっと1つの作品を作り上げたラーソンは、次回作の創作へ動き出すことが出来ない。

もう30歳の時限爆弾が爆発するまでは秒読み寸前だ。

ところが落胆の最中、親友のマイケルがHIVに感染し、余命幾許もないことを知らされ、ラーソンは気付く。

自分が作り上げた虚構のデッドラインよりも、親友の命のデッドラインこそ本当に向き合って行かなければいけないと。

ラーソンは、次回作の創作に歩み出し、自らが作り出した虚構の時限爆弾は消え、穏やかに30歳を迎えることが出来たのだ。


そして、tick, tick...BOOM!は完成した。



#tick , tick...BOOM!

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