仕事と私:4
それまで接客・販売の仕事ばかりをしていたので、事務職の経験をしてみたいと思った。正社員で未経験可の求人は少なく、雇用形態にこだわらず探すことにし、派遣会社を通して惣菜メーカーの物流課で働くことが決まった。なかなか希望に合う勤務先が見つからなかったので、妥協点があった。通勤方法が車でないと不便すぎる場所だったのだ。当時ペーパードライバーであった私にとって、毎日運転して通勤することになるというのは、とても勇気が要ることだった。初めの1~2週間は母か兄に同乗してもらい、少しずつ運転に慣れることができた。感謝。
主な仕事は、システムを使った受注・伝票発行・電話応対・商品の検品など。今思い返して他の就業先と比較すると、一通りの業務を覚えるまでかなり丁寧に教えてもらっていたと思う。社内の人との挨拶は「お疲れ様です」、外部の方には「お世話になっております」と言いましょう、といったところから始まり、一般事務員としての対応が身についた。基本的には2~3人のチームでいくつかの得意先を担当していて、欠員が出ても難なく回っていた。基本的に作業するデスクの隣の席は係長だった。ほとんど出荷現場に出向いていたので、小さな席で事足りたようだ。慣れてきた頃、その係長に月に1度ある雑務を頼まれるようになった。通常業務の合間をみて、急ぎじゃないから、と言われ引き受けていた。実はちょっと嬉しかった。内容は、確かに役職の方がやるようなことではないと納得できる簡単なものだったし、他の人がやることはない、私だけが担う仕事だと思えたからだ。もちろん、偶然隣の席だったからに過ぎないが、ちょっとだけ謎の優越感を覚えた。
また、3か月ごとに派遣契約の更新があり、こなせる仕事量に応じて業務が増えるタイミングでは、時給を上げてもらっていた。すべて派遣会社の担当者と勤務先の上司でやりとりしてもらって。直雇用のパートやアルバイトではそうはいかない。そもそも時給を上げてもらうこと自体が難しいし、交渉するにしても労力を要する。時給に限らず、仕事内容や人間関係に至るまで、派遣会社の担当者が相談に乗ってくれたり、職場との間に入って話をまとめてくれたりするのだ。この働き方が私には合っていると感じる。
しかも、初めてのデスクワークは全くと言っていいほど苦にならなかった。パソコンでの作業はもしかしたら性に合っているのかもしれない。失敗して叱られ落ち込むこともあったが、それはどこで働いても経験することだ。数人集まってプライベートで野球観戦に行ったり、私の結婚式に参列してもらったり、同僚にも恵まれた。名字が変わり、引っ越して通勤に倍以上の時間がかかるようになり、当時は交通費も支払われなかったが、それでも更新を続け、また先方から切られることもなく、妊娠・出産を機に泣く泣く契約を終えた。2年半程勤めた頃のことだった。