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ミモザで始めた「つかまえて」

バブル経済とそれの関係性は確かではないが。
「講談社X文庫ティーンズハート」が爆発的にヒットし、ティーン女子を中心に話題になり流行し、盛り上がったのは、バブル景気に沸いていた頃だと言えると思う。

当時小学生だった私は、ピンクの背表紙に統一されたこの文庫本から、「カッコいい東京の高校生のおねえちゃんの生活」をイメージした。
九州の田舎に住む自分も、彼女たちの青春を、作品を通して垣間見ることができるような気がして、ティーンズ向け小説をかたっぱしから読んでいた。

気になる作品を集めていく中で、
秋野ひとみ作「ミモザの庭でつかまえて」という作品に出会ったのは、小学六年生のとある秋の日だった。
書店に連れて行ってくれた父に、今日はこれにする、とその一冊を買ってもらったことからすべては始まった。

読んでみると、この作品がすでに何冊も続いているシリーズものだということがわかった。
「ミモザの庭」は13作目だったのだ。
単体でじゅうぶん楽しめるものだったので何も気にならなかったが、
困ったことにシリーズを全て揃えたくなった。
ものすごく、面白かったのだ。

さっそく、父に相談した。
こないだの書店で買ってもらった本がシリーズものだったから、全部欲しい。父は、面白かったならよかった、と快諾してくれた。
その年のクリスマスプレゼントとして前作までを買ってもらえることになった。

そして、手に入れた過去作。
1作目の「夕暮れ時につかまえて」を「ミモザの庭」で知った人物を振り返りながら読み進める。
由香、左記子。二人のヒロインを中心にした一話完結の探偵もの。
小林くんも敦子ちゃんも、「ミモザ」に出てきた名前。

「ミモザ」以降は、新作の出版を待って自分で書店へ買いに行った。
二カ月に一度、新刊が出るので楽しみに一冊ずつ読んでいった。
たまにある上下巻も楽しかった。
新刊が出るのを待って買う。
その繰り返しを、最終巻が発売された2006年まで、ずっと続けた。
中学生になっても高校生になっても、県外の大学に進学しても、就職しても。
つかまえてシリーズを集めることは止めなかった。
完結したとき、私は28歳になっていたけど、最終巻までずっと変わらず楽しむことができた。

ヒロインの由香に共感しながら左記子にも憧れたり、桜崎圭二郎さんに淡い恋心のようなものを抱いたり。つかまえてシリーズの登場人物たちは魅力的だった。

何より思春期の私がこの作品で知り、その後の青春時代にいい影響を与えてくれた大事なことのうちのひとつは、
「恋が楽しいなんてウソ」という言葉だったと思っている。
初めて読んだ時の私は、恋は楽しいものなのだろうに、どうして左記子や圭二郎さんは、そんなことを言うんだろう。と考えていた。

その意味がわからないまま過ぎた数年後、初恋時代に突入した私はそこで、「恋が楽しいなんてウソ」の意味を知ることになる。
報われない片思いを長くしている蓉子さんというキャラクターの独白には涙した。
楽しいなんてウソだけど、喜びのあることも確かだと、圭一郎さんの言葉もあった。
苦しい失恋を経験し、また新しい恋をするたびに。
シリーズを集めながら由香たちと一緒に、いつのまにか少しずつ大人になっていた私。

全巻揃った「つかまえてシリーズ」は、今日も元気にそばにいます。
あんたそれ持ってくの、と引っ越す日に大笑いしてくれた父。
うん、だって、ミモザまではお父さんが一気に買ってくれたものだしね。
とは言いませんでしたが。いつまでもこの作品を楽しめる自分でいることが、何かのバロメーターになるときがあるんです。

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