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ラストストロー
移住して一年半、義実家自営に入社して一年。
日増しに疲弊していく自分自身が不安でたまらなかった。
生きていても仕方がないと思えてしょうがなく、
この地獄から抜け出すことも無理だと決めつけて弱気になり、
「幽閉」されてでもいるような精神状態で、自宅と事務所の往復をするだけの日々。
その日に舅姑から受けたストレスを夕方からの時間でなんとか処理するだけで精一杯、それでも翌日には同じことで前の日と同じストレスを受ける。そのむなしさに心は完全に折れてしまっていた。
そんなある日舅が、お客様を連れて事務所に戻ってきた。
義実家から徒歩二分ほどの一軒家を売りに出している方で、そのことをききつけた舅が詳しく話を聞きたいとお連れしたようだった。
自分が買う、とものすごく威張って話を始める舅。
わたしはそれを同じ部屋で聞いていて、へー、と思っただけだった。
しかし、彼の次の言葉に驚愕した。
「息子夫婦に住ませるわ。今の家よりこの会社に近いしな」
…息子夫婦、ってもしかして私たちのこと?
ていうか息子は現場で留守、嫁は目の前にいますけど。
そんな話を、目の前にいる本人を無視して進めるって、いったい何なの。
わたしに声をかけることもなく、舅はその方から価格や条件について聞きたいことを聞きたいだけ聞くと、じゃあそういうことで、と話を打ち切り、帰らせた。
人生ごと舅姑の支配下に置かれて飲み込まれようとしている、と冗談じゃなく体が恐怖で震えた。
舅はそのあとまったくそのことに触れず、わたしは心臓がバクバクするのをこらえ、定時を待って帰宅した。
数時間後、夫が帰ってきて「家買うわ」と言い出した。
話を聞いてみると、舅からあの家が売りに出ているから買え、と命令されたとのこと。
わたしは、自分の考えを夫に話した。
前から思っていたことだけれど、あなたの両親はわたしたちの人生を、自分たちのものだと勘違いしている。そしてあなたも、そのことに疑問を持たず、彼らの言いなりになることを自然なことと受け止めている、ように見えて仕方ない。
だけどわたしは、そうは思わない。わたしは彼らに利益をもたらすため好きに動かせる駒ではない。彼らがそうしようとしていることをこの一年半感じ続けてきたけれど、わたしは嫌だ。
その家には住まない。わたしがどこに住むかは彼らが決めることではないし、今より義実家が近くなるなんてお断り。
夫はわたしが激しく抵抗したことを両親にいい、その後のことは詳しく知らないが、この話は立ち消えになった。
わたしは、舅姑への嫌悪感がこれまで以上に強くなり、顔を見るのも嫌になった。
さらに距離を取り、絶対に支配などされるもんか、と決意した。
しかし、彼らの会社で働くという環境までは、変わらない。
その絶望感は自分が想像した以上に大きく、日々の苦痛は増した。
また次、何を言い出すかわからない。その恐怖は底知れなかった。
もはやここまで、と心の壊れる音を聞いたわたしは、精神科を受診した。