明治から昭和初期を生きた「三角コレクター」徳田真寿について書く【2019.9.30執筆】
マルもいいけど、サンカクもいい。
優しく見守ってくれていそうな満月がマルなら、目を細めてじっと見つめてくる三日月が三角だ。どちらかというと、わたしは後者が好きだ。シャープでスタイリッシュでミステリアス。ピラミッド、オルゴナイトなどのイメージが強いためかもしれないが、どことなくスピリチュアルな香りすらする。
“三角”には、そんな魅惑的なパワーが備わっているのだ。
そんな“三角”の魅力にとりつかれた徳田真寿(1867~1944年)という人物が、明治~昭和初期の長崎県北松浦郡江迎、現在の佐世保市江迎町にいた。
▲徳田氏のコレクションをみにいく
江迎町は、長崎県北部に位置し、2010年に佐世保市に編入合併されるまでは北松浦郡だった。平戸藩の本陣が置かれ、多くの人々が通った街道(平戸往還)の宿場町としても知られる歴史ある町だ。また、『快感♥フレーズ(少女コミック・小学館)』でおなじみの新條まゆ先生の出身地としても知られており、個人的には歴史のコクと恋愛の甘酸っぱさが入り混じった不思議な印象を抱いている。
徳田氏のコレクションが収蔵されているという江迎支所をたずねた。
中に入ると、入口からほぼゼロ距離で窓口がある。そこに向かって、池の鯉にランダムにエサを投げ入れるがごとく「あの、徳田真寿さんの…」と緊張気味に声を掛ける。
こういうとき、特定の人に声を掛けて無反応だったらどうしようという防衛本能が働くのだ。誰かわたしのコトバを拾ってくださいと願う。すると、「ああ、いいですよ」と窓口の奥の方にいた職員さんが返事をしてくれた。
江迎町すばらしいと思った。
ここに収められているのは、この町で金融業で財を成していた徳田氏が愛した“三角コレクション”だ。コレクションは、三角形のアクリルケースに大切に保管されていた。
職員さんのこだわりポイントである。それぞれがまるで結界に守られているかのようにも見えた。
印鑑が入っている箱には、「大正三年実印ト共に調印ス」とある。なんと実印だったとは。今の時代ならギリギリ許されるだろうか。
展示品はまだまだ他にもあって、いかに徳田氏の財力が凄まじかったのかがうかがえる。
職員さんに色々とお話を聞いてみると、どうやらコレクション散財がもとでご家族も苦労されていたとのことだ。地元民によって「天下の奇人」と称されるまでに奇妙な行動を繰り返していたという徳田氏。自身も「頓痴奇屋(とんちきや)主人」だと称していたらしい。
一見大金持ちで好き放題なイメージだが、徳田氏が富を得るまでの道のりは、決して楽なものではなかったという。それを打ち消すかのように、むしろ前向きになるように、奇人を装っていたのではないかという印象すらある。とにかくものすごくエネルギーがある人物なのだ。
▲徳田氏のお墓を参ってきた
さいごに、徳田氏の墓にお邪魔した。話には聞いていたが、これも三角だったとは。
台座から鉢まですべてが三角だ。自身がねむる場所までも三角…。ここまで徹底しているととても清々しい。それにはかなりのエネルギーを要したことだろう。ちなみにお墓に刻まれている文字は、「○十院殿釈有耶無耶大居士」で「レイジウインデンシャカウヤムヤダイゴジ」と読む。
●三角形をあわせると円になる
徳田真寿氏が遺した言葉の中に、
とある。とてもポジティブで惹かれる言葉だ。
わたしももし何かにくじけそうになったら、神龍を呼ぶばりに三角のものを集めまくってやろうかとおもう。
ぜひ佐世保を訪れる機会があったら、ちょっと足を延ばして徳田氏のこだわりと生き様にふれてみてほしい。
ちなみにこの徳田真寿氏だが、江迎町では立派なイベントコンテンツとして「ガイド付きとんちきや展」が開催されていたりする。詳しくは3月に開催されている「肥前えむかえ繭玉まつり」で検索してみてほしい(※イベント内容は変更になる可能性あり)。
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