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結婚記念日に飲み歩いたお店をフェスっぽいTシャツにしてもらった

2024年最高のセットリストを見てくれ

7年目の結婚記念日の夜、夫と5軒のお店を飲み歩きすっかり酔っぱらった。10時には帰宅し、パジャマに着替えたあとや歯を磨くまえなど節目節目に「めちゃくちゃ良かったよね」と言い合いながら眠りに落ちた。
にやつく余韻は翌日になっても抜けない。おぉ、あの楽しかったのは一体なんなんだと歯を磨いたり食器を洗ったりしながらほわほわした頭でいた。

そこへ仕事終わりの夫からLINEがきた。


18:10〜22:30

64 一番搾り、スパークリングワイン、前菜2種、パスタ2種、ラム肉料理
鳥きん レモンサワー、鯨の赤身、ハツ塩
酒品館いしまる エビス
旅と猫と 梅酒、日本酒
宮崎酒飯 スパイス焼酎、イクラとかのアレとイワシとガリのやつ

4時間で5店舗はいいペースですね。


夫もばっちり余韻が残っているらしい。お互いに楽しかったんだなと再確認できたので「だよなぁー」と声が出た。

メニュー名は覚えておらずざっくりとしているが、味は思い出せるので十分である。この夫からのLINEの内容を紙に書いて壁に貼ったらきっと、見るたびに幸せな気持ちになれるに違いない。SNSで流れてくる猫の画像より効果てきめんだろう。

行った場所や胃袋におさめたものを文字で眺めると、まるで達成感のような、チームとしてやったな俺たちという小さな興奮が湧き上がってきた。画像を並べるのよりも脳への情報の刻まれ方が違う気がする。

この感覚はあれだ。好きなアーティストのライブに友人と行った帰りに立ち寄ったカフェでのやりとり。その日のセットリストをキャイキャイ挙げながら、手帳のフリーページに書いたあのときの興奮に似ているぞ。「今度CDに焼いて持ってくるね」とか言って解散したけどその後どうなったっけ?

ライブの感動をとじこめたものの代表格、それはTシャツだ! あのふるえるセットリストをTシャツにしよう。物販コーナーで売っているグッズみたいに思い出を身にまとえたら。部屋に飾れたら。どんなに素敵なことだろうか!

勢いに任せ、夫へTシャツを作ってくれと素早く文字を打つ。少し間をあけて、「いいよ」の返事を待たないまま「フェスみたいなやつを」と続けざまに打つと「途中まで考えてみたよ」と来た。どうやら帰りの道中で作ってくれていたようだ。感動するほど仕事が早い。

夫は帰宅するなり1時間ちょっとでデザインを完成させた。

オシャレなフェスに行ったかのよう。結婚7年目でこれはいいノリだ。

上の曲線でわたしたちが訪れたコースと店舗の位置感がわかるようになっている。店舗名と飲み食べしたもののセットリストはLINE上のやりとりのままざっくりとしているけれど、思い出せるから大丈夫。うつくしい文字列、オシャレだなぁ。結婚記念日がTシャツになるのか。昭和の結婚式の引き出物みたいだが、ずいぶんと内側向きでかつカジュアルだ。

あの日の飲み歩きを振り返ってみる

お店選びの嗅覚はわたしより夫の方がよい。「どこか店は決めてる?」と夫に尋ねると、特に、といったような顔をしつつ、「前から気になってたところに」と、しっかり予約を入れてくれていた。わぉ、そういうとこだよキミ。ようやく念願叶ったりじゃないか。

そんなすてきな1軒目、【+64(ロクヨン)食堂】から飲み歩きはスタートする。約12年間、ニュージーランドでシェフをやっていたオーナーさんが、同国の国際番号「+64」を看板に開いた食堂だ。自家製パスタをはじめとするジャンルレスな料理はお酒にも合い絶品。連日多くの客で賑わうため、なかなか予約が取れないと聞く。

予約時間に少し遅れて到着。食堂の名の通りカジュアルな雰囲気のなか米軍基地で働くアメリカ人も食事を愉しんでいて異国感も満載だ。

カウンター席に肩を並べて座るのがあまりにも久しぶりでウキウキした。声がワンオクターブ上がっている自分を制しようと思ったが夫も珍しく笑顔を見せているのでよい。今日はそういう日だ。

メニューの上から順番にといきたいところだったが、オーナーさんオススメのメニューを中心にバランスよくオーダーした。

イチジクと生ハムとチーズってなんでこんなに合うんだろう
うっかりワイン越しに撮ってしまうほど美味しかったんだもんね!!!!!!
これはすごい、すごいと二人で唸りながら食べた逸品。オレンジとチーズがパスタのなかで新しくてうまいものになっていて、トマトの甘さと酸味といっしょに口の中で溶け合う感じ。たのしい即興芝居観てるみたい
こんな柔らかくて微笑みが出るラム肉あるのか、って話をしていた
写真見てるだけであったかくなるしお腹も減る

バランスよくオーダーしようと考えた頭の中には、二軒目以降のことはこの時点で正直なかった。さてどうしよう。驚くほど満足してしまった……。

このまま帰っても良いほどお腹の中のフルコースは完成してしまっているが、二人で出歩くことはめったにない機会。どうにかして二軒目でエンジンをかけ直したいと作戦会議をした。結果、ここからすぐ近くの【鳥きん】に行こうと決まりロクヨンカラーに染まった胃袋を抱えて向かう。

場所は店の階段を降りてすぐの30秒もかからない場所だ。ここで飲み歩きが終わるか終わらないかが決まると言っても過言ではない。
がらがらと戸を開け店内に入る。平日にも関わらずお客さんでいっぱいだ。予約をしていないため肩身をキュッと縮めながら賑やかなテーブルをすりぬけカウンター席についた。

まずはレモンサワーでスイッチを切り替えよう。さまざまな部位の鶏肉がならぶ冷蔵ケースを眺めながら、この胃袋になにを足そうか? いや、なにを足せるかと考える。

メニュー表を見るとふいに「鯨」という文字が目に入った。たぶんだけど、もしここが一軒目だったら入ってこない。まっさきに鳥刺しと特製卵焼きを頼んでいたに違いないはずだ。

「鯨…の刺身にします」と、その理由と共に夫に伝えると、わかってくれたものの串焼きに後ろ髪を引かれたようでハツを注文していた。
「集団で串盛りを頼んだとき、一番美味しい出来たてのタイミングで自分の好きな串が食べられないことに毎回モヤッとしている」といった話題で盛りあがっているうちに料理が登場。鯨肉をシャクシャクと噛みしめ鉄分補給。ハツからも塩と鉄分を摂取した。ハリのある元気な食感のおかげでぶるんぶるんとエンジンがかかった。

人気店で過ごす番外編はひじょうに豊かだった。

そして人もまばらなアーケードを通り【酒品館いしまる】へ。地元では数少ない角打ちで、ビジネスマンや自衛隊員たちの名刺がびっしりと貼られた壁が名店の証である。

サッポロ赤星の瓶を冷蔵庫から取り出しグラスで乾杯。お店のママは接客中だったので、中吊りモニターに映るバラエティ番組を観ながら静かに味わった。帰り際、お店のママに「久しぶりね」と言われたので「結婚記念日なんですよ~」とホクホクして店を出た。

会話だ。

やはり、お酒だけではなく会話も飲み歩きの醍醐味だとあらためて認識する。

ふわふわとただよい、栄町・三ヵ町アーケードの路地裏にある立ち飲み店【旅と猫と】へ吸い込まれた。ここは気軽にふらっと訪れたくなる猫の店だ。わたしたち夫婦は、すっかりマタタビを食らった猫のごとく顔のパーツがゆるんでいた。いい顔してるな夫。

梅酒ロックを味わい、Instagramで見て気になっていたオリジナルグッズのホテキーをゲットして多幸感。あぁ、いい結婚記念日だ。猫好きなオーナーや猫好きなお客さんからの言祝ぎでさらにうれしくなる。
「子守してくれるお姑さんがいて羨ましい!」とも言われ、たしかにそうだ、協力してくれる家族あっての時間だよなぁとありがたさも噛みしめた。

波佐見焼のぐい呑みカップの柄がレトロポップでかわいい

つねに気にしてはいたが、あらためてしっかりと時計を見ると21時近くになっていた。そろそろ帰りますかとお店を出てアーケード街の出口へと歩く。

なんとなく夜風にあたりたかったのか、夫が国道沿いへ向かったのでついていく。たびたび気になっていたお店【宮崎酒販】の前を通り、何気なく中をちらっと見た。たまたまお店の人と目が合った。にこり。

「よかったらどうです?」の一言にするすると中へ。

予定外最高じゃないか。歩くとき、半分つま先立ちになっていた。

今日はたまたま空いていたみたい

いつも店内のカウンターにはお客さんがいっぱいで、基本的には予約必須なお店である。が、今日はたまたまだった。そんなお店でノープランかつ胃袋が満たされている状態なのはとてつもなく贅沢なことじゃないだろうか。

見ろ、いくらとウニらが宝石のようだ

そんなほぼ満身創痍な客に、その場でお酒やつまみを提供するというのはきっとお店側にとってもチャレンジなことである。「いまこんな状態なので、それに合うものをください」なんてオーダーメイド的なことを!した!のだ!たのしい!

……けど無茶振りだった? という申し訳なさを優しく拭い去ってくれた宮崎酒販での一杯と料理の味は、するりするりと胃袋のすきまを満たしていったのである。

酔っ払いながらも話題は子どもへ。幼稚園でも英語が飛び交う、米軍基地のある街ならではの光景。外国人の友人もできた子どもたちに、戦争の歴史をどう伝えるか、などなど。
ちょっと深い話をしている。

5軒目にしてようやく、わたしたちの薄皮一枚が剥がれた。少し世間に対して素直になっているのがわかる。板前さんたちとの距離感も心地よかったのかもしれない。

カニが出てきたのさね。たまたまカニを食すシチュエーションってこの先何度あるかしら

これにて本日の胃袋が本当の完成を迎えた。最後の思いもよらぬお店とのめぐり逢いを果たして着地。うつくしかった。

さっき自宅に帰ってから「よかったねぇ」と言い合ったと書いたが、たぶん店を出てからすでに言い合っていた。

空を見ると星が出ていたせいかまだまだ明るい。酩酊感。タクシーはどこでどう捕またのか覚えていない。ここでもまた吸い込まれたのかもしれない。

本当にいま思い出しても目尻が下がってしまうほど、かろやかで心浮き立つ夜だった。Tシャツに袖を通すまえにまじまじと文字を眺める。さて来年は、どんな風にただよえるだろうか。

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