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一杯のコーヒー

図書館に通い始めて半年、
毎月4〜5冊本を読んでいたのだけど
今月は本を読む時間どころか寝る時間も、ごはんを食べる時間も極少で仕事をして、先週の今ごろ「あ、6月はたぶん無理だ」と悟った。


寝ずに食べずに生きられるならその分働いてもいいくらい仕事は好きだし、嫌だとまったく思わないのだけど、実際はそうするわけにはいかず、仕事をするために休みが必要である。
そこで4日ほど前にフライトチケットを調べてみると、韓国が安い。

安すぎてびっくりするほど安くてその日にチケットとホテルを予約して、今ソウルでこれを書いている。


何も考えない時間と本を読む時間を捻出するために電車で移動し、飛行機に乗った。
よく眠れておいしいごはんが食べられれば、どこでもよかった。

日常から離れて海外に出て誰一人知らない街に行くと、自分の性格がよくわかる。
どういうものに心惹かれ、どういうものに時間とお金を遣い、どういった人との関わりが心豊かにしてくれるのかを感じるきっかけになる。


本の続きが読みたくてカフェに入り、つたない英語でオーダーすると「日本語で大丈夫ですか?」と店員の若い女性が声をかけてくれた。
アメリカンコーヒーとケーキを注文してベルが鳴るのを待つ。
それほど手のかかる注文ではなかったはずなのだが、呼ばれるまで少し時間がかかった。

ベルが鳴って受け取りに行くと、可愛らしい木のトレイにコーヒーとケーキがのっていた。
思わず「かわいいですね!」と言うと、先ほどの女性が「私が初めて淹れたコーヒーです」という。「大学生をしてて、まだ5日目なんです。美味しく召し上がってくれたら嬉しいです」と。

その女性が淹れてくれたコーヒーは素晴らしく美味しくて、私の好みのビターな感じだった。馴れない土地で働いて、最初の一杯を自分のために淹れてくれたことを想うと嬉しさが込み上げた。

帰り際に本当に美味しかったこと、旅のいい思い出になったことを伝えてお店をあとにした。
こうしたちょっとしたやり取りが、旅に彩りを与え、記憶を色濃くしてくれる。


明洞は日本の「かわいい」文化が溢れていてサンリオ、ポケモンをはじめとするぬいぐるみが沸騰していて、いかに日本文化が愛されているかがわかる。もはや日本である。が、それが韓国テイストになっているところが余計にかわいい。
しかし明洞から少し外れると、リアルソウルの風景とにおいと熱気が漂っていて、そのギャップが本当におもしろい。


自分が働くために、休むために、あるいは生きるために旅は必要で、そのなかで経験したひとつひとつの種が新しい自分の芽となって育てられればいいと思う。

話を一年前に遡ると、去年の明日私は仕事で韓国に来ていた。とっても大変なスケジュールで心身ともに疲弊した。お土産を買う時間さえもなく、いつかリベンジすると心に誓っていた。
それがまったく新しい形で新しい記憶を保存できることを、いま心底嬉しく思っている。

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