![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160568327/rectangle_large_type_2_897b64e0fa546d7c134a3a83ad0c64a8.jpeg?width=1200)
デ・キリコのマヌカン
先日、神戸市立博物館で開催中の「デ・キリコ展」を観に行って来ました。
キリコは二十世紀初頭に活躍したイタリア人の画家。ニーチェなどから思想的影響を受け、シュールレアリストらに影響を与えました。
キリコを代表するモチーフが、マネキン(「マヌカン」)。以下では、マヌカンについて思ったことを書いていきます。
孤独を表す、腕が欠けた二体のマヌカン
こちらの『ヘクトルとアンドロマケ』は、古代ギリシャの詩人ホメロスが書いた叙事詩の一場面を描いた絵です。別れを惜しむ二人の男女が、マヌカンによって表されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1730710208-0bo3Ctmg95ZMILGdQRAzkU7V.jpg)
彼らには、顔も腕もありません。だけど足はあります。腕とは、人が人に手をのばしたり、お互いに抱き合ったりなど、人と人の間につながりを築くものです。だから、この絵には、腕をもたない孤独な二人の人間が描かれているのではないかと思います。
前述しましたが、キリコはドイツのミュンヘンにいたとき、ショーペンハウアーやニーチェといった思想家たちから影響を受けたそうです。
ニーチェはさまざまな偉人に思想的影響を与えた人物で、影響を受けた人物の一人に哲学者のハイデガーがいます。
ハイデガーは人間を現存在と呼び、不安の中で孤独に死に対峙する存在として現存在を規定しました。
ハイデガーと同様、ニーチェから影響を受けたキリコも、孤独な人間存在を腕のないマネキンによって表したのではないでしょうか。
不安と不気味さを喚起するもの
ところで、キリコのマヌカンには、上に挙げたような無機質なマネキンのほかに、下図のようなどこか肉感のあるマネキンもあります。
![](https://assets.st-note.com/img/1730710263-oElkryTjPbv4wCRe2g7G8iZm.jpg)
この絵は他の絵と比べてもかなり不気味です。しかしなぜ不気味なのでしょうか?
まず、上半身に比べて下半身が明らかに小さいです。それに加えて、肌が人間と同じ色をしていたり、体にちゃんと筋肉や脂肪がついていて肉感もあります。
つまり、この絵には、人間の有機物性と無機物性が共存しています。
さらに、顔がのっぺらぼうということは、人間社会にとっては不可欠な表情も抜け落ちています。
以上の要素が相まって、見るものに不気味さや不安という感情を喚起していらと思われます。
終わりに
芸術作品とは、現実の特定の側面に焦点を当てて描くことによって、人に何らかの感情を抱かせるものだと思います。キリコのマネキンは、普段は気に留められることが稀な、人間の無機物性を強調し、見る者に不安や不気味さを抱かせるのでしょう。