メロンソーダと少年(続・私はマクドが好きだ)【ヤマシタのおたより #16】
先日、「私はマクドが好きだ」という回を書いた。
なぜマクドが好きなのか、それを存分に…いや、ちょびっとかいつまんで、氷山の一角を、ご紹介した。
注・今更だが、マクドである。マックではない。マクドである。
とある日、私は、「私はマクドが好きだ」で書いたお店とは別の、もう一つのマクドへ行ってみた。徒歩8分の方である。
マクドはいま、モバイルオーダーを使うと、コーヒーMサイズが100円で買える。
私のカフェ代が安く収まっているのは、マクドさまさま。感謝しかない。
でもあまり続けて行くと「あの人めっちゃ来るやん」と思われそうなので、いい感じに2店舗をばらけさせて行っている。
飲み屋だったら、むしろ顔を覚えてもらう方が常連さんたちやマスター、おかみさんと仲良くなれて楽しいのだけれど。
マクドは、ちょっと、恥ずかしい。
その日も無事にソファ席に座り、スマホでアイスコーヒーを注文。
優雅に待っていると、素朴な少年(おそらく10代後半から20歳くらい)が大きな大きなドリンクとハンバーガー2つ、おそらくLLサイズのポテトをトレーを載せて、やってきた。
よく食べるなあ、健康な証だなあ少年。
と心でつぶやいていると、彼がこちらを見ていることに気づいた。
どうやらお目あての席は、私の隣らしい。
わかるよ、この席、落ち着くもんね。
ふと、意気揚々と歩みを進める彼に、私は、嫌な予感を覚えた。
あ、この子、たぶん…
ドンガラガッシャンドンドコドーーーーーーーーン!
私が思い終わる寸前で、彼が、期待通り、やらかした。
ぶちまけたのである。
私のとなりに座ろうとした、瞬間、バランスを崩した。
飛び散るポテト、流れるメロンソーダ(またベトベト度の高いものを…)。
しかし彼は、すましたお顔をくずさない。
ひな人形か!!!!!!!!!
と思うほど、すん、としている。
そういや、やすとも姉さん(海原やすよともこさん)が、言ってた。
東京の人は転んでも「なにか?」みたいな顔して歩き出す、って。
彼は、すんとしたまま、お財布を持って、レジのある1階へと、降りて行った。
私は、やすとも姉さん敬意を覚えつつ「あ、そっか店員さんを呼んでくるんだな」と思い、ひとまず読んでいた本に目を落とした。
おおごとにしたら、きっと彼は恥ずかしい思いをする。
ここが大阪なら、隣の隣の隣の隣のテーブルのマダムもやってきてみんなで片づけるけれど、ここは東京のど真ん中。
知らないふりをするのも優しさだということを、私は知っているのだ。
しかし。店員さんが来る気配が、まったくない。
それどころか、微妙に傾斜になっている床のせいで、メロンソーダが陣地を広げ始めている。
このままだと、私のブーツも、目の前にいるサラリーマンの革靴も、みんなメロンソーダになってしまう!!!!!!!
そう確信した私は、こぼした本人がいない間に、掃除することを決意した。
ちょっと離れたところにある紙ナプキンを取りに行き、床に広がるメロンソーダに被せる。でも1回取ってきただけでは全く足りないので、往復する。
なんとか、せき止めたい。
しかしメロンソーダは、容赦ない。
タイルの溝を伝いつつ、どんどんどんどん、侵食していく。
紙ナプキンなんて、すぐにお浸しにしてしまう。
ほうれん草だって、そう簡単に浸らないのに。
メロンソーダVS.紙ナプキン。
メロンソーダの、圧勝である。
そうやって私があくせく働いている間、周りの人はというと…
誰一人、手伝ってくれなかった。
まあコロナもあるし人と距離を取りたいんだろうけど。
それにしたって!!!!!!!!!!!!!!!
地元ならきっと、
「あんた!大丈夫?」
「ちゃうんねんこぼしたんこの子ちゃうねん!」
「ほな本人どこ行ったんかいな!」
「とりあえず店員さん呼ぶわ!」
「あ、あんた、飴ちゃん、いる?」
と、おばさまたちが来てくれたに、違いない。
意外とおじさまも来てくれるし、シュッとした高校生だって、ギャルだって、ビジネスマンだって、きっと手伝ってくれる。
なんで私がこんな床拭いてるねん…
と思ったその時。
階段から、例の少年がやってきた。
少年と言っても。20歳前後だけど。
優雅に、トレーに、ポテトと、(おそらく)メロンソーダを、載せて。
私は彼を凝視してしまった。
あんた、なに、ふつうに新しいの買いに行ってんねん!!!!!!!!!!
近年、「穏やかに生きる」「人ともめない」ことを目標としている私は声に出さなかったけど、唖然とした表情は、隠せていなかったと思う。
そして、遅れてくること数十秒、店員さんが「どちらですか~?」と、やってきた。
恐らく、彼は、レジへ向かい、ご丁寧にきちんと列にならんで順番を待ち、新しい商品を注文するときに、メロンソーダが解き放たれたことを伝えたのだろう。
焦りゼロの彼を見て、きっと店員さんも、ちょこっとこぼれたくらいに思ったに違いない。
可愛らしい店員さんは、おっとりとフロアを見渡し、私の姿を見るやいなや、目をひんむいていた。
大洪水じゃないか、と。
店員さんは私のもとへ駆け寄り、「すみません!」と叫び、倉庫へモップを取りに行った。
隣にいた少年は、「あ、どうも」と言って頭を下げた。
どうも、じゃねえよ!!!!!!!!!!!!
私史上、最も乱暴なツッコミが体をかけめぐったが、我慢した。
いいえ、と言うのが精いっぱいだった。
その後やってきた店員さんはモップで一生懸命に掃除を始めた。
でも。
何を思ったか、コップが落ちているところから拭っていく。
中心から、拭こうとしている。
違うのよ店員さん、とりあえず端から中心に向かって水分取らないと、ほら、どんどん広がっているから。
このフロア斜めになっているんやって。
中心だけ拭いても、もうどんどんブロックに溝から広がっているから…
と、口には出さず目だけで伝え(伝えきれていたかは分からない)、なんとか私のブーツは、「ベトベト」ではなく「ちょいベト」で抑えることができた。
少年の方をふと見ると、元の席で、ポテトをほおばっていた。
手伝えよ…
もしくは席異動しろよ…
と思ったけど、もちろん言わなかった。
マクド、大好き。
完