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気まずさに包まれたレジのマダム【ヤマシタのおたより #18】

最近、よくスマホを使ってのバーコード決済を利用するようになった。

実はもっぱら現金派で、学生のうちは成人してもカードさえ作らなかったくらいなのだけど、ポイントのお得さとコロナ禍が相まって、いまはスマホがお財布代わりだ。

とっても便利。
ポイントカードと決済バーコードが同じアプリに入っているので、動きもスムーズ。
お財布がカードでパンパンになることもないし、意外と使いすぎちゃうこともないし、けっこう助かっている。

だけど。
時に、気まずさと申し訳なさでレジを包み込んでしまうことがある。

先日は、こんなことがあった。

買い物をしたのは、よく行くドラッグストア。
私は、徒歩10分圏内に
マクドを含むファストフード店が3軒
・ファミマ5軒
・セブイレ3軒
・スーパー4軒
・ファミレス4軒
・仕事ができるカフェ5軒
・ドラッグストア6軒
・飲食店&バー 多数

があるウルトラスーパー便利な街に住んでいるのだが、そのうちの1軒、某ドラッグストアでのお話。

いつものように入浴剤とハト麦化粧水(コスパ最高)を携えて、レジに並んだ私。

レジは2台体制で、お兄さんとマダムが対応している。

お兄さんは、170センチくらいの背丈で黒髪短髪。
年齢はたぶん私と同じくらいで、30代前半。
爽やかさ全開!キラキラ!
ではないけれど、信頼できそうな雰囲気を醸し出している。
六角精児さんを若くして、そこにハライチ岩井さんを足した感じ。

マダムは、ハッキリ言うと年齢不詳。
38歳ですって言われても頷けるし、46歳ですって言われても違和感ない。
52歳と言われても納得できるし、64歳と言われてもきっと大丈夫。
めっちゃ年齢不詳。

でも長い髪をひとつに束ねて、あまり化粧気はないものの、ハッキリした目鼻立ちが素敵な印象。

ふいに、マダムが華麗に右手を振り上げ、私を呼んだ。
「次のお客様、どうぞ~!!」

元気なマダム。
商品をレジ台に置き、「お願いします」とほほ笑む私。
「はいっっ!」と威勢よく返事をしてくれるマダム。

大阪を思い出す、店員さんの元気の良さ。

手際よく、マダムがまず手に取ったのは、ハト麦化粧水。
あの、コスパ最高なやつ。
身体にもバシャバシャ使える、コスパ最高なやつ。

左手にハト麦化粧水、右手にバーコードリーダー。
慣れた手つきで商品を読み取る…いや、読み取ろうとする、マダム。

『・・・。』

何も聞こえない。
あれれれれ。
ここで本来なら、『ピッ♪』が聞こえるはずなのに。

照れたようにはにかんで、もう一度かざす、マダム。

『・・・。』

再び訪れる沈黙。
鳴らない。『ピッ』が、聞こえない。

その後、様々な角度でバーコードリーダーとハト麦化粧水を合わせるマダム。

マダムに焦りが見え始める。
そうなると、もう、ダメ。

いくら動かしても、いやむしろ、焦るがゆえに動かしすぎて、全然、鳴らない。

気まずい。
こんなに鳴らんこと、ある????????

しばらく闘ったものの諦めたマダムは、ふうと息を吐き、手動でコードを打ち込み始めた。

ああ、ごめんマダム、私が来るまでは軽快なレジさばきを披露していたのに…。

きっとあれやんな、ハト麦化粧水がボトルなのが悪いんやんな。
曲がってるから、コード。

きっと次の入浴剤は大丈夫。
だって、箱だもの!!!!!!!!!
コード、まっすぐだもの!!!!!!!!!

こんな私の期待を一身に背負い、入浴剤を手に持ったマダム。

…が、願いも空しく、鳴らない『ピッ♪』

マダムは距離の問題と思ったのか、箱とバーコードリーダーを近づけたり遠ざけたりしている。

箱にリーダーをつけてダメなら、引いてみる。
押してダメなら、引けば良いのだ。

しまいには、まるで弓道選手のようなポージングで、左手に入浴剤の箱、右手にバーコードリーダーをかざすマダム。

右手の肘、めっちゃ上がってる。ハイエルボー。

「そんな、老眼の人が一生懸命に小さい文字を読むときみたいな動き…」
と思ったところで笑いそうになったので、すっと目線をそらしたものの。

それでもなかなか、『ピッ』が聞こえない。

左手の入浴剤を固定し、右手を近づけたり離したりするマダム。
しっかりと腰から身体を動かしてる。


本当に、弓道選手さながら。
後ろで束ねた長い髪も、なんか勇ましい。
袴を穿いているようにも、見える。


「いや、レジでそんなんしてる人、見たことある…?」
と心の中でつっこみながら、エールを送る私。

そのエールが届いているかは分からないけど、肘を大きく上に突き上げ、バーコードリーダーを上下前後に動かすマダム。

一心不乱。
もはや私の存在は、彼女にとって無いも同然だろう。


…こんなはずじゃなかったのに。
さくっと買い物がしたかっただけなのに。

というか、前の人まではどうやってたん、マダム。


その後、ようやく『ピッ!』と、心なしか普段の何倍も大きな音が聞こえ、この戦いは終わりを告げた。

マダムの、勝利。

ふう、っと額の汗をぬぐったマダム。(ように私は見えた。)

「○○円です!」
晴れやかな笑顔とともに伝えられた、お会計金額。

私は、ものすごく申し訳ない気持ちをにじませながら、すっと、会計トレイに、スマホのバーコード画面を差し出した。

マダムは、何とも言えない顔をしていた。

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