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プリーツスカートを殺したい

午前四時、制服を着る。自分が心ごと殺されていくような、そんな心地。柔らかく静かにそこにあったはずの心が、根から枯れ果てて死んでいく。制服に腕を通すその瞬間、体が自然にそれを拒否する。鼠色のネクタイをしめると同時に自分の首が絞められていくような、そんな感覚に陥る。

駅前のベンチでスタバの新作を片手に笑い合う髪の長い女子高生を見て、私は気持ちが悪くなる。なぜだか無性に殺したくなる、それと同時に死にたくなる。短いスカートを履いて睫毛を上げて、ぬいぐるみを下げた通学鞄を手にしている高校生たち。すれ違う度、私は自分がわからなくなる。私はあんな女子高生に憧れていたのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。

髪の短い自分がわからない。突然ワンピースを着たくなる自分がわからない。メンズ服ばかり探す自分がわからない。高校生という自分がわからない。生まれてきた自分を受け入れられない、そんな自分がわからない。

 華やかで人の目を惹く、可愛いらしい容姿を持った友達が窓際の席に座っている。胸を張った振る舞いを見せる彼女は、薄い前髪と艶のある髪を靡かせて、にこやかに廊下を駆ける。天性の女の子として生まれた彼女の中では、女の子として愛されることは当たり前なのだろう。彼女が少し前に誕生日に何をプレゼントしてもらうか悩んでいた時は、本当に深く愛されているのだなと、どこか絶望に近い感情を抱いてしまった。あまりに無垢で純粋で、私はそれを見るたび本当に死にたくなる。自分が白くいい人だから、周りの人も同じようにいい人だと信じて疑わないのだろう。親から無償の愛をもらってきたから、整った顔立ちで生まれてきたから。

悪を知らない、どこまでも無垢な女の子。でもきっと、そっちの方が美しいのだと思う。完璧で完全な少女とはきっと、そういうものだ。

本当は、私もそんな少女になりたかったけれど。自分が女の子であるということに拒絶なんてせず、もらった愛を両手で受けて、髪が長くて可愛い女の子になりたかったけれど。少しでも、生まれてきたそのままの自分を大切にしたかったけれど。でも、でも、もう無理だったんだ。

ずっとずっと、人の顔色を伺って過ごしてきた。家では絶えず、威張る父の感情に左右されて生きてきた。いつだって家での優先順位は、父に怒られないようにすることだった。父の機嫌を損なう要因は他でもない自分にあって、自分がしっかりすればいいだけなのに、それがいつもできないから。自分を責めることしかできず、高圧的な態度を取る父を恐れていた。人としての価値を否定され、お前は社会に出たら絶対に失敗すると言われた。頭がおかしいから病院に行けと大声で叫ばれ、何度も何度も学校を辞めろと言われた。今の父は病気で寝たきりだから、何週間も会話さえしていないのだけれど。

人に愛されることが普通だとは思えないし、思ってはいけないと思っている。

毎日三食作ってもらえて、風邪をひいたら看病してもらえて、穏やかで若い両親がいて、可愛い顔をして生まれてきて。大切にされるのが当然のように生きている人が、どうやらこの世にはいるらしい。

そう考えた時私は、全てを無性に壊したくなってしまう。

プリーツスカートを揺らして桜の降る坂道を上る少女という存在に、私の手が届くことはなさそうだ。

私には、女の子という才能がない。女の子として自然に生きる才能がない。自分が女の子であるという事実を受け入れられない。男性になりたいとも思えない。親に愛されることが普通だとも思えない。自分のしたいように生きてみたいけれど、それを目指す上での弊害や壁があまりに大きすぎるのだ。

愛されるという感覚がわからない。人を愛すことも忘れてしまった。何が大切で何が塵屑なのか、それすらもわからない、そんな人間になってしまった。

これからも私は死にたくなりながら、必死で息をして、虚しさを掻き消すように生きていくのだと思う。吐きそうになりながら黒いスラックスを履く、灰のような今日という日だった。


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