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ひとり浜辺を歩くだけ

数日前、海に行った。学校のすぐ近くにある海岸だ。学習室で勉強していたが全く集中できず、心を覆う霧が晴れなかったため外へと飛び出したのがきっかけだった。

ふと思い立って、海に行こうと決めた。空は晴れ、風はやわらかく吹いていた。プレイリストにお気に入りの曲を入れ、白いイヤホンを耳に装着した。流れ出すピアノの高音が頭蓋に直接響き、僅かに痛みが走った。構わず、足を進め続けた。少しだけ回り道をすると、見た事のない景色に何度も出会うことができた。工事現場の作業員さんが、道行く私を不思議そうに眺めていた。

水平線は横断歩道の向こう


草の生えた道を抜け、長い長い階段を駆け下りていった。陸部の練習で何度も走らされた階段。嫌な記憶で胸が疼いたけれど、それもまた青春ぽくていいかなと、なんとなく思った。

重い教材の入った鞄を、アスファルトの上に思いっきり放り投げた。灰色のベストを脱いで、スカートを膝上に三回折った。潮風があたり、心地よく素肌が晒された。

海はあまりに綺麗だった。打ち寄せる波は意外にも強く、満ち干きは激しかった。

空から海へと続く蒼


大声を出して走ったり、砂浜を蹴ってみたり。テトラポッドだけが私を見ている空間で、全てを忘れようと風になってみた。

三時くらいに学校を出発して、もう五時になろうとしていた。空はほのかに暮れ初め、満ち干きの具合も変わりつつあった。少しずつ夕に染まっていく雲たちを眺めながら、スマホをかかげて写真を撮った。

淡く夢の夕凪の色


夕が藍へとバトンタッチし、だんだんと夜の訪れを感じる気温になっていた。ひとしきり海の情景に浸ったのち、駅まで歩いて帰ることにした。

海には総ての永遠が詰まっているのかもしれない、なんてことを思いながら歩道を歩いた。私も死んだら海の一部になりたい、そんな気取ったことも考えていた。

孤独の海に溺れないように


こんなにも近くに海があるのに、どうして今まで訪れることがなかったのだろうかと不思議に思った。これから三年間、私はこの海辺にお世話になるだろう。また近いうち、晴れた土曜日にでも行ってみようと思う。Still-GATEを流しながら散歩する海岸ほど、青くて綺麗なものはないのだから。


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