私には「ラストマイル」を観ることが必須だった。
「2024年問題」
2024年問題」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
2024年問題とは、日本の物流業界が直面する大きな課題で、特にトラック運送業者や配送ドライバーに関わるものだ。
背景には「働き方改革関連法」による労働時間の上限規制があり、2024年4月からトラックドライバーにも適用されることになる。
私は物流関係の仕事をしている。
他の映画の予告編で「ラストマイル」が流れ
満島ひかりさんがコンベアを流れる出荷商品を見つめながら
「絶対に止めない」とつぶやく場面を観た瞬間
やっと物流にスポットライトが当たったんだな、と感慨深く思った。
この映画だけは、どうしても見なくてはならないと心に刻んだ。
唐突だが、身体の話をしたい。
心臓があり、脳があり、胃があり、大腸がある。
けれど、それぞれの器官が健康であっても、単体では体は機能しない。
血液が流れ、体中を巡るからこそ、人間は動けるのだ。
では、日本や世界にとって、この「血液」に相当するものは何だろうか?
それは、物流だ。
モノが動き、物流が機能しているからこそ、社会は成り立っている。もし物流が止まれば、社会全体が停止してしまう。
しかし、物流がどれほど大変な労力で成り立っているかを理解している人は少ない。
荷物を受け取り、トラックに積み込み、運転し、届ける――そのすべてをほとんどの場合、人が手作業で行っている。
長時間の拘束、肉体的・精神的に過酷な労働だが、その現場に注目されることはほとんどない。
私たちの日常は物流によって支えられている。それが止まれば、生活そのものが成り立たない。
それでも、物流業者は低賃金で働くことが多く、労働環境の改善が求められている。
だからこそ、物流の大切さを理解し、そこで働く人々への感謝や支援が必要だ。
2024年問題は、こうした労働環境の改善を目指しているが、同時に物流の停滞を引き起こすリスクもはらんでいる。
物流は、社会を支える「血液」だ。
だからこそ、私たちはその流れを守るために、今何ができるかを考えるべきではないだろうか。
そんな物流にスポットライトを当てた映画が『ラストマイル』だ。
あらすじ
【ネタバレのない感想】
あっという間の128分だった。
スピード感があり、最初の爆発から始まる展開から目が離せず、気が付いたら終わっていた。
何といっても満島ひかりさんと岡田将生さんのコンビと演技力が素晴らしい。
満島さんの感情の緩急のつけ方、振り回されながらも、受ける岡田さんのフラットさ。
この演技を堪能するだけでもこの映画を観る価値はあると思う。
【俳優さんたちのこと】
そして、またもや、酒向芳さんである。
警視庁捜査一課刑事として現れた酒向芳さんをみたとたん
「え、また?」
と思わず声が出てしまった。
なにかというと、私が観る映画、大体8割くらいに酒向芳さんはいつも出演されているのだ。
なんで?なんで?
と、ストーリーに関係なく、私の頭の中でこの問いがぐるぐる回る。
でも、いいのだ。
酒向芳さんはすごい。
どれだけ引き出しがあるのだろう、どれだけ違う役を演じることができるのだろうと感心しているのだ。
要するに、酒向芳さんはそれだけ、求められている俳優さんだということなのだ。
【『アンナチュラル』『MIU404』】
星野源さんや石原さとみさん。
端役なのにやたらと豪華な人たちがたくさん出てるなと思ったら、この映画
ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と同じ世界で起きている
というシェアード・ユニバーサルストーリーとのことだった。
申し訳ないが、『アンナチュラル』『MIU404』
ともに見ていない私である・・・・・・ (汗
けれど、全く問題なく警察であり、鑑識であり、病院にいる豪華キャストはストーリーを邪魔しなかった。
むしろ大好きな松重豊さん、井浦新さん、飯尾和樹さんを拝めたのは個人的に、とてもうれしくて、サブスクで最初から見てみようかと思ったくらいだ。
また、大好きな俳優さん、安藤玉恵さん、大倉孝二さん、宇野祥平さんを堪能できたのもうれしかった。
書いていて思ったが、私の趣味はかなりマニアックだな……。
【シークレットな俳優さん】
そして。
おおっぴらになっていないけれどシークレットで俳優さんが二人登場する。
パンフレットでは袋とじになっていた二人である。
その中のお一人は、つい最近まで連ドラで、真逆な立場の役をしていた方で、これまたすばらしい演技を披露されていた。
その演技に心が打たれた。
そして、今回もその演技力に涙した。
不思議な縁だなという思いがした。
【物流物流事情について】
ここからはストーリーの核心に触れるので、少々ネタバレになる
配送業者の現状はとても厳しい。
1つの荷物の配送料が150円というのは決して誇張ではない。
それでもスピードと正確さを求められ、過酷な労働環境に追い込まれている。
その結果、多くの人が業界を去っていく。
しかし、物流が止まれば、日本全体が止まる。この映画は、その現実を正面から描いている。
現代社会は、恐ろしいほどのスピードで進んでいる。
「平安時代なら1週間かかった情報が、今ではたった1時間で集まる」
これはもちろん比喩だが、過去に比べて現代の情報伝達が劇的に速いことを示している。
しかし、それに人間の心と体は追いついているだろうか?
欲しいものがすぐに手に入る時代は素晴らしい。
しかし、一つの欲望が叶うと、次はさらに別のものを欲しがる。
それが人間の性だ。
「もっと早く、もっとたくさん、次は何がほしい?」
という問いが頭をよぎる。
映画中に登場する「あなたの欲しいものは?」というDAILY FASTのCMは、
ストーリーが進むにつれてその言葉が恐ろしく響いてくる。
人間はどこまで欲深くなれば満足するのだろうか。
この映画は、そんな問いを私たちに投げかけているように感じた。
最後に岡田さんが手渡された鍵。
それは、観ている私たち全員への宿題のように感じられた。
物を早く手に入れることが本当に幸せなのか。
荷物が時間通りに届くことが正しいことなのか。
こうした便利さの追求が、私たちの人間性を失わせているのではないか。
『ラストマイル』を観て、そんなことを考えた。
「働く」ということ
一つの企業の「歯車」として生きること
その歯車から抜け出すことへの恐怖
これらについても深く考えさせられる映画だった。
観るたびに、また観る人ごとに違う答えが見えてくる映画だと思う。
タイトルの『ラストマイル』。
それは、最終拠点からエンドユーザーへ商品を届ける物流サービスを意味している。
「最後の1マイル」とは、距離的な意味ではなく、商品が消費者に届くまでの物流の最後の区間のことだ。
ラストマイルは、配送プロセス全体で特に重要な部分であり、消費者体験や満足度に直結するため、効率化やコスト削減が課題となる分野だ。
この映画を通して、その重要性を改めて感じることができた。
【まとめ】
この映画を観て、日々の生活がどれほど物流に支えられているかをあらためて感じた。
毎日手にするものが当たり前のように届くのは、多くの人々の努力と献身があってこそだ。
便利な時代だからこそ、その裏で働く人たちへの感謝と理解は決して忘れてはいけない。
次に荷物が届いたとき、その背後にある「ラストマイル」を少し意識してみるつもりだ。
それはただの物の流れではなく、物流を支える一人ひとりの労働や思いがつながっている。
たとえば、火野正平さんと宇野祥平さんが演じた親子のような、エンドユーザーを大切に考えているドライバーさん。
(余談だが、このお二人、一文字違いだからキャスティングされたんじゃないかとひそかに思ったりした)
そんな人たちが流れを作っているからこそ、社会全体が動いている。
物流は、まさに社会の血液なのだ。
止まることなく流れていることに感謝を忘れずにいたい。
そのことをこの映画は教えてくれている。
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