ラブ・セカンド・サイト:パラレルワールドに入りこんでしまったら、そこには何が見つかるだろう?
フランスで劇場公開されたばかりの、ユーゴ・ゲラン監督の『ラブ・セカンド・サイト』Mon inconnueを観た。タイトルのつじつまが合っていないのが、もちろんこの映画のひねりである。ぼくのものなのに、見知らぬひととは?
空想好きの高校生だった、主人公のラファエル。卒業し、結婚して、今ではファンタジー作家として、大成功している。妻は、同じ高校で知り合った、ピアニスト志望のオリヴィア。彼女のほうは、コンクールに挑戦してもうまくいかず、いまはピアノをやめている。
オリヴィアは小説家としてのキャリアに没頭し、オリヴィアのことをかえりみない。二人はそのことで、喧嘩になる。
怒ったラファエルは、オリヴィアをモデルにしたヒロインを、小説のなかで殺してしまう。すると彼女は、ラファエルの現実の生活からも、消えてしまった。というか、かれはパラレルワールドに、入り込んでしまったのだ。
そのパラレルワールドでは、ラファエルは中学校の国語の先生になっている。そしてオリヴィアは、国際的に有名なピアニスト。そしてラファエルのことがわからない。妻だったはずの彼女は、パラレルワールドでは、見知らぬひとになってしまった、というわけ。
パラレルワールドでラファエルは、自分のことを忘れてしまったオリヴィアを取り戻すため、彼女の伝記を書くという名目で、彼女に近づく。マネージャーと同居していて、彼女は結婚寸前。ピンチ!
彼女をないがしろにしていた彼は、雲の上の存在になってしまった彼女の気を引かなければならない立場に、立たされる。
これは、黄金時代、つまり1930-40年代のハリウッドの、スクリューボール・コメディというジャンルでおなじみの、「再婚(remarriage)」の主題というものの変奏系だ。
仲のいいカップルでも、一緒に住んでいる間に、いろいろ問題が起きてくる。コメディだから、彼らは喧嘩の勢いで、簡単に離婚してしまう。そしてべつの男性、べつの女性と、付き合いはじめる。
でも本当は彼らは深いところでつながっていて、お互いにお互いでないと、ダメなのである。いわばそれを再確認するために、かれらはいったん別れる。
だから、相方の新しい恋人との関係をこわすため、お互いいろいろなお芝居をする。
お互いがドンピシャに釣り合っているこのふたりは、当然新しい恋人とは、釣り合っていない。なので、喧嘩別れしたこの二人は、ドタバタの末また結ばれる。しかしそれを再認識するためには、ドタバタを経なければならないのである。
『ぼくの見知らぬひと』では、ピアニストの夢をあきらめたオリヴィアが、パラレルワールドでは大成功している、というスパイスがきいている。ステージの上でピアニストとして光り輝いているオリヴィアをみたラファエルは、涙を流し、パラレルワールドをそのままにしておこう、と思う。
パラレルワールドに入りこめるなら、そこに何が見つかるだろう?何を見つけたいだろう?ラファエルは、なおざりにしていた、いちばん大切な彼女の気持ち、そしてなにより、彼女に対する自分の気持ちを、そこで知った。
現実世界につかれたら、息抜きにパラレルワールドに旅して、ちがう世界でまた大変な経験をして、それをおみやげにまた現実世界に戻ってくるなんていう人生が送れたら、すてきである。現実の人生で忘れていたこと、抑圧していたことが、きっとそこにはあるはずだ。
この映画、日本公開もされるそう。その際は、おすすめです。
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