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絵本原作 お日さまのタオルケット

コタくんは、夜、眠れません。
コタくんは、夜が大嫌いです。
お昼寝は平気なのに、夜は暗くて、怖くて。目を閉じてしまったら、おばけや妖怪がいたずらをしにやってくるかもしれない。お布団にすっぽり包まって、がたがた震えていたら、いつの間にか朝になっているのですが…。

夕焼けの空をみると、コタくんは楽しい気持ちでいられません。だって、もうすぐ夜がやってくるからです。暗くて、怖くて、眠れない夜が。

今日から、幼稚園は夏休み。夏休みの真ん中には、お泊り会があります。なんと、教室に子どもだけで泊まるのです。コタくんはとても憂うつでたまりません。
楽しい夏休みのはずなのに、
朝顔が咲いても、はぁ〜。
海で泳いでも、はぁ〜〜。
スイカを食べても、はぁ〜〜ぁ…。
そして毎晩、ドキドキ、ギンギン、がたがたがた…。暗くて、怖くて、眠れない…。

ある夜、お母さんがコタくんを優しく手まねきしました。
「とっても素敵なもの、コタくんにあげる」
それは、見たことがない色をした、きれいなきれいなタオルケットでした。
「これはね。お日さまの光で編んで、お日さまの色で染めた魔法のタオルケットなの。夜のおばけや妖怪からきっと守ってくれるよ」
お母さんは魔法のタオルケットで、コタくんをやさしく包んでくれました。
いいにおいで、さらさらで
ふわふわで、あったかくて
不思議と不思議と眠くな〜る…
暗くて怖い夜なのにまるでお日さまにだっこされているみたい。ぽっかり体が浮いていきます。
その夜、コタくんは生まれてはじめて、ぐっすりしっかり眠れたような気がしました。

お空が夕焼け色になり、今日もまた夜がやってきます。
でも大丈夫、僕には魔法のタオルケットがあるんだ!
コタくんは、いっぱいいっぱい夏休みを楽しみました。

そして、いよいよお泊り会の日。
コタくんは、魔法のタオルケットにしっかり包まって、おふとんに入ります。
『せんせい、おやすみなさ〜い』
ゆっくり目を閉じると、楽しかった今日が頭に浮かんできます。
先生とみんなで、大好きなカレーを食べたこと。花火がきれいだったこと。協力してお布団を敷いたこと。初めて、まくら投げをしたこと。
コタくんは今日も、ゆったり眠りに落ちていきました。

…え〜ん、え〜ん…
…ぐすん、ぐすん…
その声に、コタくんは目を覚ましました。
そこは、誰も知らない、真夜中の世界。
コタくんはタオルケットをギュッと握ります。
辺りをキョロキョロ見回すと、お隣に寝ていたリコちゃんが、お布団に座りこんで泣いていました。反対側では、はるとくんが、お向かいでは、ひなたちゃんが、みんなみんな、泣いているようでした。

「リコちゃん、どうしたの?」
コタくんは、ヒソヒソ声で話しかけます。
「怖いの、いつもの幼稚園じゃないみたい」
リコちゃんの目から、涙がポロポロこぼれました。
「きっとオバケだ、オバケがいるんだ」
「もしも妖怪だったら、どうしよう…」
はるとくんとひなたちゃんも集まってきました。

その時。
のそり…ズズズズ…
教室の隅で、大きな影が動きます。
チョロチョロッ…ケケケッ…
教室の天井で、小さな影たちが笑います。
リコちゃんが、ひっ!と息を吸い、
はるとくんは、あっ!と耳をふさぎ、
四人はまるで、串に刺さったお団子みたいに一緒になって、震えました。

ひなたちゃんが思わず、
「お母さん…」
そう、小さな声で言いました。
コタくんは、お腹の底が、じっとり冷えていくように感じました。
もうだめだ…
暗くて、怖いよ。怖くて、暗いよ…

ザアアアッ…
突然、風の音がして、窓からやわらかな光が差込みました。
雲から顔を出したお月さまが、コタくんの膝の上に丸まっていたタオルケットを照らし出します。お日さまの色が、辺りにぱぁっと広がりました。
そうだ。僕には、魔法のタオルケットが、お日さまがついている…!
コタくんは、すっかり怯えたみんなに話して聞かせます。
「これはね。お日さまの光で編んで、お日さまの色で染めた魔法のタオルケットなんだって。夜のおばけや妖怪から守ってくれるんだよ」
あの日、お母さんが優しく話してくれたように。そしてみんなで、タオルケットに包まりました。
いいにおいで、さらさらで
ふわふわで、あったかくて
不思議と不思議と眠くな〜る…

「あのね、お月さまは、お日さまの光で光っているんだって。僕、図鑑で読んだことがある」
はるとくんが、鼻をすすりながら話します。
「そうか…。お月さまが、お日さまの光を夜に届けてくれてるんだ!」
「すごいね!」
「とっても、すごいね!」
そう言って、みんなで笑い合うと。
暗くて怖い夜なのに、まるでお日さまにだっこされているみたい。
ぽっかりと、みんなの体が浮いていきます。

幼稚園を飛び出して、
向こうのお山をぽーんとけって、
お星さまが一面に輝く空へ…
その晩、四人は、みんなでお月さまになる夢を見ました。
それは、とってもとっても楽しくて、幸せであったかい夜でした。

終わり


昨年の夏頃、絵本原作コンペに応募したものです。
個展が終わったので、こちらに格納します。
会場でお会いした方から直接「これ好きです」と声をかけてもらうことが多かった作品。ちなみにアンケートで人気だったのはエッセイ「本は現れる。」でした。
(そちらも個展用に修正した内容を反映していますので、よかったら改めて読んでみてください)
なんだかその違いに、作者との交流も含めて楽しむ人、咀嚼しながら感想を持ち帰る方、アンケートを書く人・書かない人…など、双方の”人となり”みたいなものが見える気がしておもしろいです。
この作品は、具体的な絵のイメージに文章を付けていった感じです。
絵を描くことは、物心ついた時から大好きで、だからこそ自分の画力の低さを割り切って諦めてきた部分も多い。でも、個展や、この1年の経験を通して「自分なりにやってみるのもいいかな」と思っている自分もいます。
考えるより、やってみる。その過程での学びと工夫、気づき。そして未発表の作品を溜め込むより遥かに多くの学びを得られるのが、フィードバックを受けることだし、その取捨選択や見極めを的確に行うことだし、これだと思った一言から100…いや、120を学びとること。そうあり続けるための貪欲さと、それに見合う吸収率を保つこと。
…そう考えると、具体的な目標ありきの同人誌制作って心理かもだなぁ。

日々精進です。長いあとがきまで読んで頂き、ありがとうございました。

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