
金沢紀行3日目~兼六園・県立図書館・太田じろうほか~
いつもながら最終日というのはさみしいものだ。荷物をぜんぶ担いで最後の観光に向かう足取りはおのずから重くなってしまう。
ところで、僕は本を買いあさるのが趣味で、今回の旅行でも各文学館・記念館で参考書籍を買いまくっていたから、それをリュックに詰めて帰るのは不可能である。ので、ホテルのフロントで段ボールを購入、チェックアウト前に自宅へ配送して事なきを得たのだった。

①兼六園
で、朝から訪ったのは兼六園。
僕は金沢駅近くに宿を取ったのだが、そこから兼六園まではグーグルマップによると歩いて30分そこそこ。それならと、バス代をケチって朝8時に歩みを始めたのだった。とかく旅行では金を使い過ぎてしまうので、こういう地道な倹約が必要である。
入る前から周囲にはお茶屋さんが軒を連ねているが、まだ開いていない店も多かった。何より観光客(ほとんどが中国人)がすでに集まり始めていて、景勝地としての人気を再認したのだった。

結果から言うと、園内はさして広くなく——といっては語弊があるけれども、歩いて回るには広すぎずちょうどよい公園だと感じた。ところどころに立て看板があり、ただボーっと回るだけではよくわからないポイントを解説してくれるのも助かった。





朝早くに行ったからまだそんなに混んでいない? 感じで助かった。天気もよかったし、ふらふら散歩するにはお誂え向きのタイミングであった。
②石川県立図書館

カレーに舌鼓を打ったあとは県立図書館へ。
なんで地方まで行って図書館などへ訪うのか、というのはまことにその通りなのだが、まあ本好きの端くれとしては話題のスポットをいちおう覗いておきたかったのだ。
さすがに徒歩ではめんどうな距離だったので金沢駅近くからバスで向かう。(PASMOが使えなかったので整理券をとらなきゃいけないのに取り忘れ、運転手にやや迷惑そうな顔をされてしまった。申し訳ない)
どうしてわざわざ行ったのかは、写真を見ればお分かりいただけると思う。



とにかく、円形に配された書架が印象的で、吹き抜けの空間のあちこちに椅子が置かれていて異様である。
で、実地で見て気づいたのだが、これはただ円形に本を並べているだけではない。並べ方が独特で、たとえば「文学にふれる」「好奇心を抱く」のように、従来の十進分類法とは区分の異なるテーマに依っているのだ。これが存外面白い。
いったいに、本というのは「この本が読みたい」とspecificな対象を探す・読むケースももちろんあるが、「こういうことを知りたい」というざっくりした目的で本を眺める、もっというとランダムにアクセスすることだってあるだろう。その意味で、現代はPCを使って探している1冊を探すのはそんなに面倒ではないし、であれば寧ろ開架はテーマをもっとわかりやすくまとめて、ランダムな楽しみのほうにフォーカスするというのもひとつの手ではあろうと思う。
ただ、これだけでは冊数とか扱えるテーマとか限界があるよなあ、と思ったら、従来のNDCに沿って並べられた棚もきちんと用意されていて、100%先進的でないからこれまでの使い方をしたい人にもハードルが高くなっていないのがよいと思ったことだった。
まあ別に司書についての勉強はマジメにやらなかったので図書館論を語れるほどではないのだが、こういう図書館が身近にあると本好きな子供が多くなりそうだなとは思う。現に、広い館内を自由に走り回る(それもどうかとは思うが)子供が散見された。

③太田じろう展
バスで戻る途中、ふと外に目をやると「こりすのぽっこちゃん」が見えた。そうだ、今は太田じろうの展示が金沢に出張しているんだった、と思い出した僕は、帰りの電車が20分後に迫っているのをよそに、尾張町町民文化館へ。太田じろうは児童漫画家として知られる人物で、カラフルでかわいらしい絵柄が予てから僕は大好きなのだった。近年、関係者によって図録が出されたり展覧会が実施されたりして(僕が知ったのもそのタイミング)、再評価が進んでいる作家でもある。

入場時に簡単な説明(銀行として使われ云々)を聞いたのだが「いまは太田じろうという方の原画展をやっておりまして」というのに「はい、存じております。好きで見に来ました」というと、奥の方から現れたご婦人はなんと太田じろうの御令嬢であった。
僕が「以前アキバでやった展示も行きました」というと甚く嬉しそうになさっていて、寧ろこちらが恐縮してしまうくらいであった。

なにぶん時間がなかったので10分そこそこしか見られず、かわりに新刊2冊を購入、先の御令嬢の方にお願いしてサインを書いていただいた。先方の御希望でご一緒に写真まで撮って「次の展覧会もうかがいますし、新刊が出るたびに買います」と約束して辞去した。

旅先でこういう有機的な出会いがあるとは思っておらず、短くもうれしい時間であった。
おわり
とにかく今回の旅行は盛りだくさんだった。実はここに書かなかった記念館・美術館もあって、訪れたミュージアムは総計12。我ながら無茶をしたものだ。3daysパスを買ったから、多少もったいない立ち寄り方もあったけれども、網羅的にいろんなところを見られたのは良かった。
ちなみに買った本は17冊。これは3日間と考えれば並ていどであろう。
いつかきっと再訪したいけれども、他の未踏の地にも行きたいから優先度は下がってしまう。切ないがこれも一期一会である。