官給品不敬罪
あまりデカい声で言うことではないが、僕の母は手作り界隈でちょっと知られたマスク屋をやっている。
昔はいろいろな型のものを作ってたけれども、いわゆる立体型のものは、布製だと各々の顔の大きさ・容に合わせなければ用をなさないので、この頃はもっぱらプリーツ型ばかりを生産しているようだ。
身内びいきながら、使い勝手はかなり良いと思う。
わざわざ問屋からいろんな柄のガーゼを仕入れてきていて、僕など外で使うのはちょっと気が引けるのだけれども、室内では毎日着用している。
この流行感冒の世が到来するずっと以前から、僕の生活はマスクと切り離せないものであった。
仕事の時はいわゆる使い捨てのものを使うのだが、家の中でも、特に寝るときはガーゼマスクなしだと体調を崩してしまう。
昔はそんなことなかったのに、いつの間にか喉がおそろしく乾燥に弱くなってしまって、冬場などうっかりマスクを忘れて寝てしまうと、直ちに喉を傷めて風邪をひくのだから困る。(夏場は夏場でクーラーの風がしんどい)
それだけ弱いのなら加湿器でも使えばよいのではないか、というのは全くもって素人の発想である。
近代の初版本が犇めく僕の部屋において、湿気は憎むべき敵に他ならず、むしろ除湿器の購入を検討しているくらいなのだ。
昨年の夏はちょっと油断していて本にカビが生えかけたから、今年からはもっと湿度に気を付けなければならないと思う。
そもそも紙の多い部屋は湿度が下がるという話も聞いたことがあるし、まあ本棚の一角に寝床を置かせていただいている身分としては、多少の健康上の不都合など許容すべき些事であると捉えるしかない。
先日、僕の家にも政府からマスクが送られてきた。
そういうわけでガーゼマスクには一切不自由していないし、むしろこんな半端な質のものを送られたって使い道がない、というのが正直な感想である。
ましてナントカ宣言が解除されはじめたこのタイミングで到着したって、後の祭りというか、夏炉冬扇というか。「使ってください」という心意気は認めないでもないけれども。
また余談ながらコレクター心理としては、このマスクに官給品であることを示す印が入っていたらよかったのになぁと思う。
戦時中の煙草とかお菓子とか、そういうサインが入っていれば時代を語る興味深い資料たり得るのに、見たところ「3つの密をさけましょう」なるペラ紙をもってしか、政府支給であることの証明が出来そうにないのは非常に残念だ。
花粉のピークもすぎ、特段のこだわりを持たなければ、闇市場あたりのマスクはずいぶん安く手に入るようになってきたと聞く。
マスクが市場から払底して3か月余、ようやく復興のめどが立ってきたというところであろう。
語弊を恐れずに言えば、肺炎が流行したくらいのことで流通に大混乱をきたすというのも、情けない話である。いわゆる民度とか技術とか、世間では隣国を蔑視する向きも多いけれども、手放しに周りを嗤えるほど高い位置にある国であるとは、僕はちょっと思えない。
オリンピックなんて、今となってはそんなにやりたきゃどうぞという感情しか抱いていない。
僕としては時流に関わらず、ただ粛々と本を買うだけのことである。
ナチュラルに土曜日を失念したのは初めての事でした。吾が事ながら癪なので、遅れ馳せながらアップしておきます。
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