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バーバーショップとお勉強

数回前の記事で書いたカナダの友人とのメッセージ交換は、もちろん全編英語で行った。
日常的に英語を使わなくなってもう3年以上たつわけだが、どうにかやりとりに支障が生じないレベルだったのは幸いである(実はotherwiseと書きたい場面でunlessと書いてしまい、少し伝達に問題はあったのだが、文脈から読み取ってもらえて助かった)。

目下、周りに英語話者はいないのだけれども、英語との付き合いを完全に断ち切ってはいないのが功を奏したわけで、何を言いたいかというと、バーバーショップを聴きつつ歌詞を覚えようとしたりするうちに、英語の頭が超低水準ながら維持されていたということである。

ということで今回の題目は、古本の次に需要のないテーマであろうバーバーショップについて。



話はちょっと遡って、7月3日。

YouTubeでいろいろ動画を漁っている内にふと、「今年のAIC Showは開催するのだろうか」という思いが浮かんだ。

AICというのはThe Association of International Championsの略で、バーバーショップの国際大会優勝カルテットだけが出演するという、夢のようなイベントだ。
各カルテットが持ち曲を披露するのみならず、AICメンバーが一合唱団となって歌う曲まで用意されていて、YouTubeで断片を見るだけでも非常に楽しそうなイベントである。

しかし今年はまあ状況が状況だし、例年のようなコンサートは難しいだろうと思われた。

その場の勢いで調べてみると、なんと今年はバーチャル開催ということで、ライブ配信がなされるというではないか。しかも豈図らんや、日本時間で翌4日の朝に開演となっていたのだ。なんというタイミングのよさだろう。
ふだんから超夜型の生活をしていて、ぶっちゃけると北アメリカ時間で生きているわけだが、これが吉と出たのは初めての経験である。
すぐさまRegistrationを完了させ、当日の朝、仕事から帰るや否や画面に張り付いたのだった。

イベントはなんと5時間も続き、僕らしくないことにかなり興奮しながら楽しむことができた。

ライブということで、実際にリアルタイムで歌っているカルテットもあれば、過去のコンサートの映像とかMVみたいのを配信するカルテットもあり、それぞれ持味がよく出ていたと思う。

だいたいのカルテットについて「このチームの持ち歌では〇〇が白眉」みたいに、好きなナンバーがあったりするわけなのだけれど、見ているとけっこうその曲を歌ってくれるパターンが多く、一音目が出た瞬間に(自室で)歓声を上げそうになってしまった
フェスの類は一切行ったことないけど、たぶんこんな風な高揚感を得られるのだろうなぁと思ったことだった。


その「歓声を上げた」演奏は現状YouTubeに上がっていない(し、おそらく傾向から言って上がることはない気がする)が、以前も紹介したInstant Classicのこれなんかは茶番的パロディ色も濃厚で面白かった。

1本目の茶番、"I think we said we were meeting Kohl's, right? Right off Main Street?"とか"Can you tell me the Crossroads?"とか"You mean we could be Interstate Rivals?"とか、セリフのうちに他のAICカルテットの名前が織り交ぜられているあたりが好き。界隈はけっこう交流があって仲も良いみたいだ。

演奏としては、やっぱり一発勝負のライブ感はないので魅力は一枚落ちるけれども、個々の能力が如何なく発揮されているように思う。



Main Streetは以前少し紹介したので過去記事を参照されたいが、Crossroadsもすごいカルテットだ。メンバーは全員AIC会員、すなわちCrossroads結成以前に国際大会優勝を経験しているので、それが4人そろえばそりゃまた優勝するよねという感じ。
(実際、優勝者が別のカルテットを結成して再優勝するパターンはけっこうあり、固定メンバーで金メダルが回されている感は否めない……)

Crossroadsの曲の中で一番好きなのはこのLucky Old Sun。リードのMike Slamkaの声も素敵なのだけれども、ベースのJim Henryもすごく好い。先のAIC Showでも、過去にこの曲を演奏した映像が流されていた。

中でもTagと言われる、曲のシメにあたる部分はここだけ切り取っても実に素晴らしくて、何回も聴いてしまう。

Crossroadsは日本に来て演奏したこともあるそうで、その機を逃した自分が悔しくてならない。

曲はおなじみ、「上を向いて歩こう」。バーバーショップとして見ればアレンジはかなり単調なのだけれども、彼らが日本の歌をわざわざ日本語で歌ってくれているというのは嬉しいことである。(あるいは、Sukiyaki Songとして未だに知名度を維持している坂本九の偉大さとでも言おうか)



本当に好きな分野になりつつあるので、いくらでもオススメが書けてしまうけれども、なにより需要がないのでここまでで切っておく。

ところで最近買った本に、以下の2冊がある。

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菅野哲男・松村一夫『バーバーショップ・ハーモニーへの招待』は、おそらく日本語で書かれた唯一のバーバーショップ本。少し古いのだが、音楽的知識とか大会についてとか、僕のような入門者にとっては必読と言っていい本だろう。

で、2冊目の『楽典』は音楽をやっている人にとってはおなじみ。というか音楽理論の教科書としては基本中の基本である。
吹奏楽とかオーケストラに所属した期間も短くないのに楽典を通ってこなかったというのは、恥ずかしくて口外できぬ怠惰だと勝手に思っていて、しかしこれは無知を叩き直すいい機会だと基礎からやりなおしている次第。和声の基本がわかっていなければ、ハーモニーの美しさをフルで楽しめないと思ってのことである。

何事も、深く楽しむにはそれなりに勉強しなくてはならない。そしてそのお勉強じたい、このくだらない人生の中ではかけがえのない娯楽と映るのである。

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