古本コレクターの日常
僕の趣味は初版本の収集で、去年の1年間で814冊も買い漁るくらいには、狂ったコレクターをしているつもりだ。
特に興味があるのは近代文学。もうちょっとわかりやすく言うと、戦前に刊行された文学書をメインとして収集に励んでいる。
買う方法はいろいろあるけれども、やはり「世界一の古書店街」こと神保町は別格だ。東京でコレクターをしている以上、最低でも月に1回は足を運んでおいたほうがいい。
その理由は、「古書即売会」にある。
古本即売会、あるいは短く「古書展」と呼ばれることもあるが、これは組合に所属する古本屋が本を持ち寄り、広い会場にびっしりと並べて販売するイベントだ。
とにかく半端じゃない量の本を見てまわれるので、本好きにとっては天国といっても差し支えない空間だろう。
神保町の古書展は、ほぼ毎週、金曜と土曜に開催されている。
もちろん古本は一点モノだし、良い本ほど早く売れてしまうものだから、特に初日の金曜日は、開場前から書痴のオジサンたちが長い列を作っている。知らない人からしたら、たぶん異様な光景だ。
そんな神保町の古書会館へ、昨日は朝から馳せ参じてきた。
ちなみに今回の古書展は「趣味展」と呼ばれるもので、近代文学収集家にとっては、おそらく日本でいちばん収穫が期待できる古書展のひとつである。
開場は10時なのだが、朝9:20に僕が到着すると、会場前にはすでに人だかりが見えた。
早くも25人もの人が並んでいる。先に来ていた先輩に聞いたところ、9時5分前の段階でも10人くらいが陣取っていたということだった。
平日の朝だけあって年齢層は高め。僕はこの中だと最年少クラスである。
最終的には50人とか60人とか並んでいただろうか。
開場の10分前くらいになったら地下で荷物を預け、10時ジャストに「各馬一斉にスタート」。
程度の差はあるけど、ここにいるのはみんなマニアだから、本のこととなるともう必死。お目当ての棚に向かって、年甲斐もなく(?)一目散に駆け出していくのだ。
「牛一頭をピラニアの池に落としたような混雑」とは、先輩による的を射た比喩である。
もちろん僕もその例外ではなくて、小走りで棚へ向かうと、もみくちゃにされながら本を引き抜いていった。
アニメとか漫画とかで、よくデパートのバーゲンセールが描かれるけれども、あれをオジサンが本を奪い合う図に置き換えれば、おおむね古書展の光景が出来上がると思う。
っていうとまるで地獄絵図みたいだが、長年の探求書が見つかったり、存在すら知らなかった資料が出てくるとやはり嬉しい。新刊を買ったり古本屋をめぐったりするだけでは決して出会うことのできない刺激が、確かにここにはあると思う。
2時間近く棚を見ていただろうか。けっきょく18冊で1万5千円。
どれも安かったし、僕にしてはかなり抑えたほうだ。
メジャーどころで嬉しかったのは以下の2件。どちらも復刻版ではなく、作者の生前刊行本である。
漱石の『吾輩は猫である』は残念なことに表紙が取れてしまっているが、それでも上編と下編のセットでこの値段は嬉しい。扉絵なんかもカワイイし、オリジナルのよさを存分に楽しめるというものだ。
この頃、『文豪ストレイドッグス』とか『文豪とアルケミスト』の人気から、若い女性たちの間でちょっとした文豪ブームが巻き起こっているらしい。
そうして文豪とか初版本に興味を持ってくれた人たちが、(さすがに初日の朝は混むからオススメしないけど)ちょっとでも古書展に足を運んでくれたら、この世界はもっと面白くなるだろうなぁと思う。
ともかくいろんな本に触れることができるし、戦前の初版本でも、うまくすれば激安で手に入れられるので、本好きならば是非一度は行ってみて欲しいイベントだ。
って、これを読んでも魅力があんまり伝わってこないと思われるのが、書いていて実にツラいところで……。
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