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仕事を辞め損なう

ほとんど無職みたいな身の上でありながら、生活が成り立つだけの給金を辛うじて得られているのは吾が事ながら不可思議である。

ちょうど1年前などは、長時間の残業もこなしていたし、古本その他の娯楽も制限されていたため、それなりの貯金ができていたのだからありがたい話と言えばその通りだった。

が、どうも昨年末あたりから体調が芳しくなく、出勤日数を減らすことにした。給料的には額面でだいたい従来の3分の2くらいとなり、満足に古本を買ってちょうど収支トントンという生活が、半年ばかり続いた。


好きなことで生計を立てている少数の果報者を除いて、パンの為の労働が苦痛であるというのは人類共通の悩みだろう

だから僕のような小市民がぶつくさ不平を漏らしたところで、「そんなんみんな同じだから」と言われて話はお終いなわけだけれども、ここ数年というもの、仕事が体力的・精神的にこたえるようになってきた。

接客業にそもそもあまり向いていないにもかかわらず、僕のいる業態というのは、客層があまり良くない。同じ地域内でも最底辺クラスを相手にし得る仕事と言っていい。

適当にあしらえばよさそうなものだが、根が短気な僕は事あるごとにイラつかされてしまう。人とかモノに当たることこそない(たぶん)からいいようなものの、蓄積される心労はちょっとしたものである。


で、思い切ってボスに「近々で辞めさせてもらえませんか」と連絡したところ、やんわりと窘められてしまった。そりゃあ、後の仕事が決まっているわけでもなし、「はいわかりました」と放流するのに気が引けるのもわかる。



いったいに僕は自分が無能であると自覚している

職歴はもちろん、資格もスキルもほぼ皆無。「大学は出たけれど」なんて死語を引用するのすら憚られるような、どこに出すのも恥ずかしいデクノボーである。

よしんば大学を出ていようとも、能力のない人間が定職にありつけるはずがなく、ましてこの不況にあっては、僕など路頭に迷っているくらいが妥当なセンだと思う。

むしろ今、どうにか糊口をしのいでいることすら僥倖とも言えるわけで、しかれば、今仕事を辞めるとするといよいよ掛け値なしの無職まっしぐらである。


ずいぶん長いこと世話になっているボスだから、いくら僕でも「いやぁ、この仕事辞めて食えなくなったらいよいよ死ぬだけじゃないですか?」とは、さすがに言えなかった。

今回のところはもう一段階シフトを減らすことで一旦は合意とし、しばらくは様子見という形には落ち着いたが、仕事のしんどさが和らぐわけではない。


今月以降は概算で昨年比50%くらいの収入になる見込みで、となれば古本はほとんど買えない。

ここでもっとヤバいよなぁと僕が密かに思っているのは、古本に対する興味がすでにそこまで大きくないという点だったりする。神保町に足を運ぶ気力もないし、有り体に言うと、何もかも面白くないのだ。

まして人に会いたいという気すら毫も起きず、我ながらくだらない人間に零落したものである。

まあ、つまらない人間はつまらないなりに、せめて人に迷惑をかけないよう小さく生きていくよりほかないということを、日々痛感する生活である。

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