同じ映画を何度楽しめるか
博物館も美術館も、軒並み閉館やら会期延期、または早期終了の憂き目を見ているのが大変にやるせなく、他にやることのない僕こと下等遊民は何をしているかというと、映画を観るようになった。
ちょうどアマゾンプライムには加入していたから、家で引き籠るのはどれだけ続いても全く苦にならないところだったが、折しも好きなアニメの劇場版が2月末に公開されたので、3月の中旬に観に行ってきた。
映画としての出来はすごく良くて、観ながら思わず涙の出たシーンもひとつやふたつではなかった。まあ、客観的な完成度というよりは、それだけ僕にとって愛着のある作品というわけなのだが、その一方で悲しいことに、興行的には全然ダメだという話を聞き及んでいる。
不人気タイトルでは決してない。何が悪いかと言えば、賢明な読者諸賢ならお分かりの通り、件の流行感冒とそれに伴う外出自粛令である。
アニメ映画(とりわけオタク層が観るようなやつ)は週替わりの入場特典が付くから、それなりのファンであれば複数回行くのが結構ふつうだったりする。
だが、僕が行った3週目の段階で席はガラガラ。
上の画像を見ればわかるように、そもそも予約席が格子状に(つまり1個おきに)限られてしまっているから、動員上限数は単純に半分となる。加えて「不要不急の外出は云々」など言われては、わざわざ映画館に足を運ぼうという気にならないのも道理である。
映画の興行は続編の製作に直で係わってくる要素だと思うけれども、本作はストーリー的に言ってそもそも続編があり得るか微妙なところだ。
とはいえ、自分の好きな作品が不可抗力的事態によって窮地に立たされているのは、やはり哀しい。
ちょうど休日の過ごし方を模索していたところでもあったから、この作品を複数回観てみようと思い至った。これまでは1回観れば事足れりとするのが常であったから、何となく自由研究的に新鮮な気持ちで経済を回したのだった。
話は逸れるが、僕は初見の音楽を覚えるのが得意な方だ。集中して1回、そうでなくても覚えようと思っていさえすれば2回も聞いたらフレーズはだいたい頭に入る。
以前オーケストラに所属していた時にも、ロクに練習をしないまま合奏に参加する不届きを働いていたにもかかわらず、それなりにボロを隠しおおせたのはこのスキルあっての立ち回りである。
まあ歌詞は覚えられないからカラオケには発揮できない能力で、ふだんあまり役に立つことはないのだけれど、今回の自由研究に際しても、1回目を終えた段階で劇中歌はほとんど覚えてしまっていた。
そもそも映画館という設備を考えると、この上なく集中して映像/音楽を楽しむことができる環境なわけで、1回通しで見れば、ストーリーとか音楽、果てはセリフに至っても印象的なものについては頭に残っていても不思議ではない。
正直言うと、2回目の段階で既に足は重かった。知っているストーリー、それも1週間とあけずに観たばかりの作品を、もう2時間拘束されて楽しむってのはさすがにしんどみがある。
けれども実際に観てみると、自分でも呆れるほどに拾いきれていない伏線――というか細部に凝った描写があることに気づく。
「ああ、この素振りは後半のアレにつながるのだな」とか、「聞き流しちゃってたけどこのセリフがターニングポイントだったのだな」とか、要するに映画として100パーセント要素を拾いきれていない僕がいたのである。
もっと驚いたことには、3回目に至ってもなお、自分の不理解を発見することができたことである。集中力のなさがここにきて露呈したのか、よくわからないが3度目の鑑賞もそれなりにフレッシュに楽しむことができたのはよかった。
というかそもそも、泣けるシーンは何度目でも泣けるのだった。
テレビシリーズから頑張ってきたことが報われたとか、作品としての大団円とかはもちろんのこと、劇場版のストーリーにおける成長・変化というのは、上記の通り回数を重ねることでようやくわかったようなものだから、むしろ後半の方が自然に涙の流れるところは多かった。
今回行ったのはたかだか3回で、さすがに10回も20回も観に行くような経済的/時間的余裕はないけれども、好きな作品である限りにおいては何度か映画館で観るのも悪くないじゃん、というのがこの自由研究の感想である。
今回観た『SHIROBAKO』という作品、最初に勧めてくれたのは大学で別の専攻に所属する友人だった。大学4年時に「最終回はマジ泣きしたよ」と大絶賛を聞いていたのだが、実際に僕が観る機会を得たのは卒業から2年が経ってからの事。
彼が今どこでなにをしているのかは全く分からない。海外赴任時にLINEのアカウントをうっかり新調してしまったため、共通の友人がいない彼とのコネクションは、一切無くなってしまったのだ。
きっとあいつも劇場版を観、(よしんばストーリーその他、物足りないところがあったとしても)泣くところは泣いて大いに楽しんだに違いない。
うまく連絡が付いたら是非、語り合いたいものである。
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