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読書日記断片

たまには読んだ本について書こうか。あえてジャンルの統一に欠くラインアップでやってみよう。


南陀楼綾繁ほか『本のリストの本』(創元社)

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タイトル通り、本の題名を並べたリストが提示され、それに関する解説を識者が書き連ねたという本。

ここで重要なのは、リストというからには、そこに集められた本が何かしらのテーマ・つながりを持った集合であるという点である。

たとえばp.25に「名曲喫茶に積まれていた本のリスト」というものがある。これは渋谷にある老舗「名曲喫茶ライオン」の客席近くに山積みにされていた本のリストで、店の備品として陳列されているわけではなく、客が勝手に置いていったものだという。

ここにある本の数々は、どんな書店員が選んだ本よりも間違いない「クラシック音楽を聴きながら読むのが似合う一冊」かもしれない。(正木香子、p.29)

と、筆者が結んでいるように、ここにある本は100パーセント喫茶店で読むために持ち込まれたものである。

人を待っていたり、個人の時間つぶしであったり、読書じたいが目的であったりと、個々の事情は様々であろうが、そこで読まれていた本をリストアップすることは、ともすればその場所ないし利用者の特色を如実に表しているということもできるのではないか。

もっというと、目的や場所を俯瞰的に捉えていくならば、読書という行為の特性、人々が何のために読書をしたのかなどといったものも見えてくるかもしれない。

本のリストは、単なるタイトルの列挙にとどまらず、メタ的に書物周辺の文化を考察するカギになってくるように思う。


赤坂アカ・横槍メンゴ『推しの子』(ヤングジャンプコミックス)

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オタクのくせにあまり漫画を読まないのだが、知り合いからオススメされたので読んでみた。

原作者は『かぐや様は告らせたい』の赤坂アカ、作画は『クズの本懐』の横槍メンゴという話題性の高いタッグで、どうもすでにかなり人気の作品らしい。
世評に疎いと面白い漫画まで見逃すのは困ったものである。

アマゾンに上がっているあらすじはあんまり作品世界を伝えていないし、語り過ぎるとそれこそ「ネタバレ」なので、無料公開されている頭3話をサクっとお読みいただけたらと思う。

原作が赤坂アカだけに、『かぐや様』的な雰囲気、つまりシリアスなシーンはきちんと心を打ちつつも、基本的なテイストはギャグ路線なのが肩ひじ張らずに読めてよい。そのあたりのバランスはさすがだと思う。

ともあれ1巻の段階では導入も導入。ようやく2巻から本編が始まると言っても決して過言ではない。
今後が実に楽しみな漫画である。


③アガサ・クリスティ/長沼弘毅訳『オリエント急行の殺人』(創元推理文庫)

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古本コレクターとして、僕が一番興味のあるのは純文学である。
特に大正末から昭和頭くらいの作家の本を中心に集めているのだけど、読む分にはミステリとか探偵小説も好きだ。

かといって読書経験が豊富というわけではない。
純文でもミステリでも、誰もが聞いたことのあるアレとかコレとかを未だに読んでいないし、その一方で初版本を集めたり、有力な古本屋と懇意にさせて頂いたりするのは中々に心苦しいものである。

特に古典ミステリを未読でいて恐ろしいのは、読んでいない限りは永久にネタバレの危険に晒され続けるということである。
ネタとしてあまりにも定番かつ有名であるがゆえに、日常会話の中でも「まるでポーの『黒猫』みたいだね」などとたとえ話に出てくる可能性が高いのだ。

先日、仕事中に同僚と話していて、なぜだかこの恐ろしい古典ミステリ畑に話頭が向かってしまった。
ホームズくらいなら読んでいるからとどうにかテンポを合わせているうち、その同僚が「『オリエント急行』なんかも、あの犯人は――」と言い出したものだから僕は慌てて「待って、それ読んでないからストップでお願い」と遮ったのだった。

要するに僕の不勉強で話の腰を折るのは申し訳ないことである。
ちょうど喜国雅彦・国樹由香『本格力』が文庫化され、面白く読み進めていることだし、恥ずべき未読を消化しようという試みの、その第一弾が『オリエント急行』だったというわけ。

ネタバレはもちろんしないで感想を述べると、純粋に面白かった。

まあミステリが進んだ現代では度肝を抜かすようなオチではないかもしれないが、これまでの人生でネタバレを回避できていたことにありがたさを感じる。

ただし、(これはあらゆる小説に言えることなのだが)同時代に生きていない僕たちにとって、登場人物の置かれた状況を把握しにくいというのが、本作ではフェータルに効いていた印象である。
まして海外の寝台列車事情なんて知らないため、オリエント急行の客室のようすがほとんど分からないわけで、何遍か戻って理解しながら進む、という手続きが必要であった。

それでも、やはり名作はいつ読んでも無難に面白いのだなと痛感する。
次はヴァン・ダインあたりを読んでみようかと画策している次第。


寒いのはまだいいのだが、休日が雨だとやるせなさばかりが募る。行きたい美術館にもゆけず、ふて寝をしていたら土曜日が終わって日曜になっていた。

投稿がおくれるのも嫌だし、その時間を有効に使えない自分にも嫌気がさす。せめて本くらいは読もう……。

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