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金沢紀行2日目~21世紀美・室生犀星記念館ほか~

旅行中の朝は早い。なにしろ朝食はバイキングだ。食べ逃したら損ではないか。人より食べる量が多いからうれしい、というのもあるけど、安ホテルでも割と地元の物が出たりして楽しめるので、朝食サービスは好きだ。

モロヘイヤとオクラの御浸しとか、存外おいしいスクランブルエッグとか、石川県産の米使用のおにぎりとか、おいしくてもう1順してしまう。

①21世紀美術館

朝から向かうのは21世紀美術館。例によってバスは使わないのだが、途中、金沢城城壁を見ながら行けたのは良かった。近世の歴史にはまったく疎いのだが、風情はやはりおもしろい。

地震で崩れた石垣。古来から地震の少ない地域ではないと思うのだが。

美術館に着くと、修学旅行だか遠足だか知らないが、制服を着た生徒たちが大量に来ていた。時刻はまだ9時前である。

謎のカラフルな屋外展示。現代アートは「わからない」のが面白い。

館外のインスタレーションも面白く眺めながら中へ入ると、ここでも地震の被害が出ているそうで、よくわからないが入場料のかからない「交流ゾーン」に展示があるということらしい。僕はどちらかと言うと、この美術館の佇まい(ユニット「SANAA」による建築)が見たくて来たので特に問題はない。

例のプール。わざわざ下にもぐりたいとは思わないが、配色のよい展示だと思ったことだった。

地下と地上でそれぞれ展示会をやっていて、ひとつは「透明標本」展、いまひとつは「金魚美抄2024」。両方行く時間はなかったので後者を見ることに。
金魚に魅せられた現代作家たちが、金魚をモチーフとして思い思いの作品をつくるというコンセプトで、たとえばレジンを用いて金魚が泳いでいるかのようなリアル作品をつくる深堀隆介さんは知っていたけれども、他の方は存じ上げず、創作の幅とその熱量に感動した。入場料千円にちょっとためらったのだが、これは入ってよかった。

深堀隆介氏の作。「ロボット8ちゃん」の弁当箱を開けると金魚がいるノスタルジー。
写真だと生簀にしか見えないが、レジン。展示場にはこの「水槽」が並べてあって圧巻だった。
岩本夏樹氏の作はエロチックな表情の金魚が美しかった。「ファム・ファタール」という題も良い。
今回一番圧倒された藤本絢子氏の「ガラスの向こう」。この金魚は生きているのか死んでいるのか。吸い込まれるような目は、命の重さを訴えているようだ。作品の大きさも相まって、数分立ち止まって見惚れてしまった。

東京周辺での巡回は予定されていないようで残念だが、これはオススメの展示である。ポストカードを数葉購入。


②石川県立歴史博物館

少し歩いて博物館へ。実は、本当なら西村賢太の遺品が収蔵されている石川近代文学館へ行きたかったのだが、こちらも地震のため閉館中。代わりに出張展「くらべる文学展 in 歴博」がおとなりの博物館で催されているのだ。

しかし、ここは存外常設展が面白かった。加賀藩とか前田氏とかはぶっちゃけ興味がないのだが、加賀と能登の地元の祭りの展示が非常に楽しめた。

お供え物も祭によってぜんぜん違う。
供え物というか、おそらく郷土玩具につながるアイテム。

獅子舞とか祭事の動画も公開されているのがよく、時間があればいつまでも見ていたい展示だった。が、今回は予定が詰まっているので……。

博物館の建物じたい、歴史的な煉瓦建築である。

くらべる文学展は、石川文学館提供なのでやはりいいものが多い。鏡花の自筆原稿とか、地元の作家ゆかりの品が目白押しで、図録がないのは残念だった。もっと残念なのは、西村賢太の遺品を抱えていながら藤澤清造の展示がなかったことであった。まあここまでこだわる人もそういないのだろう。

そういえば、石川文学館は旧制石川四高の中にある。外を廻ってみると記念碑があったりして、これもぜひ見てほしいスポットだ。

旧制四高校舎。四高は現在の金沢大学だが、一高は東大、二高は東北大、三高は京大、と考えるとなんとなく意外な感じがする。
説明書きを読むと、昭和16年に琵琶湖に遠征した漕艇部の学生・コーチが荒天のため遭難、11人全員が遺体で発見されたという痛ましい事故のために建てられたものとの由。


③谷口吉郎・吉生記念金沢建築館

さて、歩いて河を渡って次に向かうのは建築館。

青空も相まって美しさの映える建築。

谷口吉郎は金沢で一番有名な建築家である。東京だと東京国立近代美術館あたりが代表作だろうか。意匠的って感じではなく、個人的にはシンプルな構造を少しズラして組み合わせている印象が強い。

今回の企画展は「谷口吉郎とみんながつくった建築」というもので、藤村記念堂、徳田秋声文学碑、明治村、という文学好きにもうれしい取り合わせでの特集であった。
正直名前を知っているていどだった谷口だが、これをみて文学の復興にも一役買っていることがわかり、たいへん勉強になった。

迎賓館のを再現した和室。印象的だったのは照明の方向。間接照明が効果的に配されている。

しかしここにもけっこう人がいてびっくり。金沢は博物館・記念館の街なのかもしれない。


④室生犀星記念館

妙なところに迷い込んでしまい、住宅地を通って犀星記念館へ。

三文豪のなかでは一番地味な佇まいか。

犀星と言うと、僕は装丁への拘りをけっこう感じる作家で、特に恩地孝四郎のものが印象的なんだけれども、『性に目覚める頃』はなぜか復刻が置いてあって残念だった。『愛の詩集』特装本を出せとは言わないが……。
で、企画展は歴史モノ。古典に材を取った作品が特集されていて、未読が多かったけれどもバリエーションが豊かで楽しい。そういえばロビーで垂れ流されているビデオでは、犀星のふだんのくらしを伝えるエピソードが語られていてこれも面白かった。むしょうに杏が食べたくなる。

室生家で買われていたアンジェリーノらしい。


⑤西茶屋資料館

かなり歩いてクタクタだが、まだ行く。
本来は予定に入れていない場所だったのだが、昨晩念のため「金沢 文学」で検索をかけたところ思いがけずヒットしたので向かう。

西茶屋街は「ザ」という感じの街並みなので、ここも一見すると単なる観光案内所である。

お茶屋の建築も楽しいのだが、僕のめあては島田清次郎だ。

島清の作品の舞台がここであるらしい。

島田清次郎なんて、国文専攻でも知らない人は多いと思う。大学の時に使っていた文学史の教科書にも、名前は出ていないようだ。だけれども、大正期に『地上』4部作が各100版を超えるベストセラーとなり、時代の寵児となったことは厳然たる事実である。これも、ゲーム「文アル」に登場して一時話題になったことが記憶に新しい。
で、ここには年表とか代表的な初版本が並んでいるのだが、島清作品のアダプテーションについての展示もちょっとあって、それの方が僕は面白かった。映画があることは知っていたけれども、漫画になっていることは知らなかったし、これは蒐集範囲から言っていつか入手したいと思ったことだった。


食事

さすがに歩き通しでくたくたである。
ちなみにということで、この日食べたものは、昼が金沢おでん、夜は「8番ラーメン」であった。

盛り合わせで注文。車麩は初めて食べたけど好みである。そもそも、ふだん店でおでんなど食べることはないから、新鮮な心持ちであった。
地元で愛されているらしいチェーン店。野菜がおいしくて、これは毎日でも食べたいラーメンだと思ったことだった。

それから、昨日ローカルの情報番組を見ていて「今日から発売しました!」とおしらせされていたUNFINIのソフトクリームを食べた。

チョコがおいしいのは言うまでもなく、コーンではなく最中生地だったり、最中の中には餡子が入っていたりと、飽きずに楽しめる甘味。

ひとりでの旅行、しかもさして食に興味がないにしては、いろいろ地元の物を食べられているかなと思う。金もないのだけれど、せっかくの旅先でチェーン店で済ます勇気は無いというのが正直なところである。

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