僕のアナザースカイ
大学の先輩がワーホリでカナダへ行くという。
いまこの状況下で云々いうのはもう意味を成さない批判だろう。法に則って14日間の隔離が確定している≒感染拡大に加担する可能性は排除できるし、現状、日本において大きなことを成しとげようとするのはかなり難しいのではないかとも思う。
ともあれ、海外で仕事をするというのはステキなことである。
その先輩が行く地域に、ちょうど僕は友人を持っている。ここでは仮にBとしておく。
もとは日本に短期留学(というか遠足みたいな感じ)で我が校を訪れた学生の一人で、そのとき僕は大学2年だった。
その一団は大学で日本語を学んでいる学生ばかりだったが、日本好きの集まりでこそあれ、今思い返すとおしなべて語学能力は高くなかった。N5はどうにかなるかもしれないが、N4はとても無理、くらいのレベルか。
僕らは日本語教育を勉強していた縁で彼らと出会い(どういった席が初対面だったかは失念)、1ヶ月ばかりの滞在中、毎週末どっかしらへ連れ立って遊びに出かけたものだった。
中でもBはとくに人懐っこい性格で、思いやりのある陽キャ、という感じだった。
日本、というか海外での生活になじめず体調を崩した仲間にもずっと気を遣っていたし、一緒に飲みに行ったときに酔いつぶれた日本人学生の介抱を進んで買って出たのも彼であった。
ところで、僕は大学1年の末から、長期休暇を迎えるたびに海外留学を繰り返していたものの、大学も3年目ともなるとさすがにプログラムが尽きてくる。
春休み(大3年末)はタイでのプログラムが新設され、早めに参加表明をしたのだが、大3の夏休みを埋めるプログラムは見つけられなかった。正確にいうと、参加可能かつまだ履修していないものは、レベルが低めで退屈そうなものばかりであったのだ。
しかしながら、インドアだかアウトドアだかよくわからない性分を持ち合わせている僕は、たとえ夏休み1期間であっても予定がないことが許せなかったのだ。
ここで思い出したのが、Bの存在だった。
別れ際に、彼は「うちは広くて部屋もあるから、カナダに来る時はぜひうちに泊まってくれよ!」と言ってくれていて、まあ社交辞令の側面も多分にあったわけだが、今よりずっと図々しかった僕は、一縷の望みにかけてコンタクトをとってみた。
すると、彼はあまりにもあっさりと快諾してくれ、10日間ばかり泊めてもらえる運びとなったのだった。
いま写真を見て思い返してみても、ほんとうに楽しい滞在であった。
異国での体験は何でも面白いものだが、日常的なスーパーへの買い出し、近所の散歩に加えて、アイスホッケー場や渓谷へ足を伸ばしたのも思い出深い。
車で国境を越え、アメリカ観光の案内までしてくれたのも実にありがたかった。外国人が公共交通機関で国境を越えようとすると、手続きが面倒であるようだし、バスなり電車なりの目星を付けるのもなかなか大変だっただろう。
(地味ながら特に記憶に残っている、スペースニードルとスタバ1号店)
面の皮の厚いことに、僕はBに対してガソリン代以外の経費を一切払わなかった。Bの家庭が裕福で「ぜんぜん構わないよ」と言ってくれた、というのはもちろんあるけれども、もし次にBが日本へ来ることがあったならば、僕は全力で彼をもてなさなくてはならないと強く心に誓った次第である。
と、いうふうに、貸し借りで言えば「借り」一辺倒の身分でなお、彼にお願いをするというのも非常に厚かましい話ではあるのだが、このたびワーホリへ行く先輩(いちおうBと面識はある)が万一トラブルに見舞われたときは助けてやって欲しい、という趣旨の話をしたところ、今度もBは親身に耳を傾けてくれた。
現状、海外からの訪問者はまず2週間のカンヅメが義務付けられていて、もしもそれを無視して外出したのがバレようものなら、罰金、逮捕、のち投獄というコースをたどることになるらしい。
Bはその規定について、又政府がチェックに来るとか電話をしてくるとかいうことをわざわざリサーチして、「何かあったらいつでも頼ってくれ」と言ってくれるのだった。
今回は僕が直接に浴するわけではないとはいえ、実に実に、心にしみる気遣いである。
やり取りの中で、Bはしきりに「君も一緒に来られたらどんなによかったことか!」「次は是非ホッケーのシーズンに来てくれ」「僕もコロナが終わったら日本に行くよ!」と言ってくれた。これも僕にとってはすごく嬉しいことだ。
僕が英語を、ひいては日本語教育を勉強してきたのも、こういう国際交流がスバラシイものだと思う僕の価値観に基づいているわけで、まあ平たく言えば海外に友達がいるのっていいよね、というだけの話なのだが、久々に原点に立ち直ったような心地がしたことであった。
とはいえ、なにぶん勉強不足の身であるから、英語でスピーディなテキストチャットをするに際しては、脳が悲鳴を上げていた。
「僕も状況が好くなったらカナダへ行くよ!」とは言ったものの、英語は少しでも磨きなおしておかなくては、彼を失望させてしまうことになるかもしれない。
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