見出し画像

伏字の身の上

ナントカ事態宣言の影響を受け、仕事場の営業時間が大きく変わった。

ほぼ「看板通り」の時間となった、と言えばお分かりいただけるだろう。なにぶんインフラみたいな性質を持った仕事だから、ちょっとやそっとで店を閉めるわけにはゆかないのである。

僕の就業時間としては、夜から朝までだったものが、夕方から深夜までというかたちにシフトした。相変わらず法外な労働時間であるのは慣れたものだし、生活リズムそのものにはさしたる影響を与えない。

この状況で、さすがに持病持ちのオジサンとか学生とかを働かせるわけにもゆかないから、自然僕のような若き世捨て人は、負担が大きくなる形になってくるわけで。


罹患のリスクについても何ら思うところはない。

幸いにして一人暮らしだから身内にバラまいてしまう心配はなく、まあ多少気管支に不安はあるけれども、まだ若さでカバーできる年齢だろう。

っていうと典型的に無鉄砲の若者みたいで我ながら可笑しい。


それよりもこの市井に満ちた停滞こそが、僕を憂鬱たらしめている要因だと言ってよい。

たとえば生き甲斐のひとつであるところの古書展。4月いっぱいはすでに中止が決定し、現状では5月の開催も危ぶまれている。

聞くところでは業者市も「自粛」の憂き目を見たとかいうことで、ただでさえ稼ぎの確かでない業界の空気がどんどん重たくなっていくようだ。

別に僕が古書展に赴けないことじたいはよいのだが、お世話になっている古本屋の経営が難しくなるとか、経済全体が盛り下がってゆくのを見るのが堪えられないのだ。

その意味では、世間のアレコレを垂れ流しにするテレビを置かないことにした自分を褒めたいところである。


話を僕の仕事に戻すと、営業時間の短縮はお客さん方にとってもスキャンダラスな事態であるらしい。なにしろ24時間開いてて当たり前だったものが夜中は閉まってしまうのだ。

いや、時短に至った経緯として、もちろん人手不足の問題も厳然としてあったわけだけれども、お客さんをしてできるだけ出歩かせないことだって目的のひとつである。

人間生きていれば食品・日用品は買わなくてはいけないわけだが、それ以外でなんとなく徘徊しているという人も(とくに深夜帯は)多い。先陣を切るようにして事態の深刻性を理解させるのも、インフラとしての役割ではないかと思う。


あるお客さんが、連れの方に向かって言っていたことに「営業時間短くなるのか。夜勤の人は仕事減っちゃって大変だね」というものがあった。

頑張って店を開けてやっている(僕は基本、仕事に対してはこのスタンスだ)のに、事情を知らない暢気な言い分だと思ったものだが、世間の大半は案外そんなものかもしれない。


世情を鑑みれば、日々のパンにありつけるだけでもありがたいところ、家に引きこもって娯楽の少なさを嘆く暇もないというのは、とんだ儲けものと言うべきか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?