No one knows
公募のため、サイト掲載作品を一部修正して転載しております。
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葉の落ちきった木々の下で、灰色の空に煙がゆっくりと昇っていく。
「のんきだなあ」
「田舎だからね」
タイヤを燃やせば有害だが、枯れ葉を燃やせばよくある姿。芋でも包んで持ち込めば、童謡めいた風物詩だ。
「背中さむ、顔熱いから余計寒い」
「餅でも買やよかったか?」
「悪趣味ぃ」
「だって不自然過ぎね? 野郎2人で巨大落ち葉焚き」
「動画用のネタです、とか言っときゃいいさ」
その間にも炎が揺れる。葉を焼き布をなめ燃えさかる。
「臭いしないな」
「全部天然でそろえたからね」
「添加物分くらいは臭うかと思った」
火の手はますます強くなる。
内の内まで黒く燃えていく。
冬枯れた、木立の中には誰も来ない。
「……本当、のんきな」
「だから言ったろ、ここいらじゃよくある話なのさ」
地方の田舎のさらに端という、超限界集落。
自分たちが不自然でもそうでなくても、気づけないほど人がいない。
「薪を足すか」
「先に枝だね」
そうしてたっぷり2時間強、ネパールやインドの4倍近く、巨大な焚き火は燃え続けた。
山の木々だけが、それを知っている。
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