手にしたい理由は何か
「カグラバチ/外薗健」
毎度お馴染み書店巡りで存在を知る。講談を機に日本刀の舞に魅入り仇討ちの意義をもっと読み解きたくなり手に取る。
義の心にも悪の心にも順応し所有者に隷属してしまう妖刀の恐ろしさを世に渡らせぬため、何より尊敬する父の仇を討つために憎しみの炎を燃やす千紘であるが、陰険なものがないのは平常が冷めているからこそ戦いの中で見せる温情と短慮さ、何よりも柴さん、伯理、ヒナオ、シェル、薊さんの温かさと明るさが千紘を見守っているからだと考える。
カグラバチに於ける仇討ちをこのように見えた理由は一重に講談のおかげだと痛感する。そして仇討ちだけでなく「妖刀を手にしたい理由」を考える側面もあるように見える。
自分本位の正義(という悪)に心酔する者。裏社会の上位に君臨したい者。巨額の富を得ることと一族の誇りと繁栄を死守する者。国家として妖刀の恐ろしさの蔓延を阻止する(と言えば聞こえはよいが安易に脅威を我が物にしたい国の強欲さにもみえる)国政府。肚の底から人々の安寧を守り抜きたいと決意している者。父の信念を護り抜くための者。
仇討ちばかりに目が行くが、妖刀を巡る物語であることを忘れては成り立たなくなってしまうであろう。そして人物たちの信頼関係の構築の過程が「妖刀と結びつく人物の精神の重要性」を語っているようにも見えこの物語の鍵となっているように見える。
今月4巻が発売されたばかりなのにもう次巻が楽しみで致し方ない。