マガジンのカバー画像

物語棚*

9
読みきりの短編や、中編・長編の試し読み
運営しているクリエイター

#眼鏡

[掌編]珈琲と眼鏡

いつの間にか鼻まで下がっていた眼鏡を外すと、午後の三時を回っていることに気がついた。まだ昼も食べていない、と思った瞬間に喉が渇く。朝からディスプレイを睨んだままで、テキストが眼鏡のレンズに貼りついてしまったんじゃないかと思ったが、もちろんそんなことはなかった。 もう昼はいい。とりあえず珈琲を淹れよう。 珈琲を淹れる動機はそれが飲みたいからではなく、豆を挽きたいからだ。戸棚からミルを取り出し、銅のスプーンで豆を掬う。ハンドルを回してがりがりと豆を挽いているときに漂う珈琲の香