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カーボン・デ・カ・リトラ(超ショートショート)
2080年後半、個人のCO2排出量に対する厳しい規制が敷かれた未来社会。
「CO2ノ産生量過多デ逮捕シマス」
流暢な人間語でそう言い、ロボット警官のリトラは神凪を捕えようとした。
「ちょっと待ってよ、それには理由があって、今ブルーカーボン培地を入荷していたところだったんだよ!」
「CO2ノ産生量過多デ逮捕シマス」
リトラはまるで取り合わない。リトラは抵抗する神凪を機械の腕で拘束し、抵抗する力から、その力をねじ伏せる力を計算し、神凪の抵抗するより強い負荷をかけて神凪を拘束した。
「逮捕、シマス」
リトラはジーっと音をたて口部分を開くと、その中から白い蒸気のようなものを噴射した。
「うっわやめろ、くそ、こんなことし、て…」
神凪は即座に意識を失い、身体の力が抜けた。神凪の後ろにいた警官ロボットのアンリは神凪の身体を支えて機械の椅子に神凪を座らせると、ベルトで身体をきっちり固定した。
「逮捕しました。署へモドリマス」
「リョーカイ」
ニ機は神凪を乗せた椅子を押し、地面を滑るように動き出した。
2080年代後半は、カーボンニュートラルを個人にも求める時代になった。個人のCO2産生量に合わせたブルーカーボンの吸収を個人ごとに義務づけられていた。責任を追わされるのは体重と分類された生活レベルから算出された呼気量だ。
人々はブルーカーボンを様々な場所で育成することにした。家の中、庭、ビルの屋上なんかはもちろん。
帽子の上、水槽、洋服の背中、車の天井などなど。
この培地は二酸化炭素を吸収するためのものだ。特殊な酵素の働きで、カーボンの吸収が通常より早い。ほとんどのブルーカーボン培地にはこれが使われた。
ただし、世界中でブルーカーボン培地は買われ、品切れになることもある。ブルーカーボン吸収量が追いつかなくなった人間は、神凪のように、ブルーカーボン警官ロボットに捕らえられた。
「人間語で言えば、ブルーカーボンさえも育成できない人間はクソです」
リトラはわざとエモート機能を使って、デジタルの顔面に笑顔を表示させた。ロボットジョークだ。
「さんざん汚した地上に、その身を持ってクリーンエネルギーをつくれ!欲深い人間たちに責任をとらせるべき、そう上司はいってマス」「覚悟シロ」神巫とニ機の後ろ姿が街に消えた。