青い君よ、さよなら(超ショートショート)
君がその手をお隣りさん家までひらひらと伸ばすから、怒られやしないかと最近はひやひやしていたよ。
君を、とうとうもといた場所に帰す時がきて、風に乗って気持ちよさそうに揺らしていたその手を寂しく見つめる。
思ったよりもよく伸びて、うちのベランダの片隅に置かれてから、あっという間に天井に達した。お隣との間仕切りの上の空間に届くほど。
その間仕切りの空間を超えてほんの少しだけ、向こう側に飛び出た手は、風が吹けばゆらゆらとこちら側に戻ってくる。
こちら側に戻ってきたそのゆらゆらとなびく手を掴んで引き寄せた。その手はぼくが掴んだ手をすり抜けた。白くて細い女の指がぼくの手首の上をすべらせ、ほほを撫でた。
「もう、さよならなの?」
きみは少し首をかしげて青い瞳でぼくを見上げて笑った。腰までありそうな長い黒髪が風になびく。